『市民エネルギーと地域主権』
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<書評>『市民エネルギーと地域主権 新潟「おらって」10年の挑戦』佐々木寛 著
[レビュアー] 高橋真樹(ノンフィクションライター)
◆国策に風穴 「私たち」の手に
世界最大の原発である柏崎刈羽原子力発電所(合計7基)。その立地地域である新潟県で、福島第1原発事故をきっかけに、市民によるエネルギー自治の取り組みが始まった。あのような事故を二度と起こしたくないとの思いから集まった市民たちが、「一般社団法人おらってにいがた市民エネルギー協議会」を設立。10年で県内に合計で約40カ所の低圧太陽光発電所を設置し、現在は小水力発電所も計画中だ。
「おらって」は、新潟の方言で「私たち」を意味する。そこには、日々使うエネルギーを、原子力などの巨大で不透明なシステムに委ねるのではなく、市民一人ひとりの手で紡ぎ、自分たちの権利を取り戻していこうとするメッセージが込められている。中心となったのが、大学で国際政治を専門とする著者である。事業経験はなかったが、専門家のアドバイスを受けつつ、行政や地銀などとの関係を深め、市民エネルギー事業の実践へとつなげた。本書は、「おらって」の会員に向けて著者が書き続けたエッセイが基になっている。そこには、市民がエネルギー事業に関わる意義や哲学が綴(つづ)られている。
欧州では20世紀後半から、市民のエネルギー事業への参加を通じて、地域の主体性を取り戻す動きが盛んになった。それを「エネルギー・デモクラシー」と呼ぶ。エネルギー事業に関わることは、単にどれだけ発電できるかという話ではない。中央集権的で市民にはブラックボックスとなっていた国策としてのエネルギー事業に風穴を開け、地域の主権を自らつかみ取る手段である。
日本では福島の事故を受けて、「ご当地エネルギー」と呼ばれる「おらって」のような組織が全国で続々と設立された。日本の場合は、再エネ事業を進めやすくする法制度が整えられていないこともあり、その転換はスムーズには進んでいない。それでも、著者のように、これまでエネルギー事業とは関わりのなかった多くの市民が、すでに事業者として活躍している意義は大きい。
(大月書店・1980円)
1966年生まれ。新潟国際情報大教授・政治学。『市民政治の育てかた』。
◆もう一冊
『ご当地電力はじめました!』高橋真樹著(岩波ジュニア新書)