『あなたの話はきちんと伝わっていますか?「頭のいい人」の説明の公式』
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【毎日書評】説明下手をなおしたいなら、ロジカルに伝わる「説明の公式」を活用せよ
[レビュアー] 印南敦史(作家、書評家)
『あなたの話はきちんと伝わっていますか?「頭のいい人」の説明の公式』(石田一洋 著、総合法令出版)の著者は、20年以上にわたり、テレビやラジオの世界で仕事をしてきたという現役のアナウンサー。
しかし、もともとは人前で話すことが大の苦手で、すぐに顔を真っ赤にして恥ずかしがりながら人と話していたのだとか。そのため、スポーツ中継好きが高じてアナウンサーを志したものの、スキルを身につけるまでには多くの壁を乗り越えなければならなかったと当時を振り返っています。
それでも20〜30代を通じて“ことばを届ける技術”を研究して実践し続けた結果、アナウンサーの全国コンテストで1位を獲得。講師の全国コンテストでもグランプリを受賞できるようになり、ようやくプロとしての立場を確立できたのだそうです。
重要なポイントは、その過程で「説明には公式がある」ことに気づいたということ。それは、次のように表すことができるのだといいます。
説明の公式=ゴール+理由+事例(「はじめに」より)
この公式さえ覚えておけば、説明に困ることは少なくなるそう。とくに説明に苦手意識があったり、緊張やプレッシャーに負けそうになったり、自信を持てないというような方には効果的であるようです。
なお、本書では、私自身の知見だけでなく、テレビで“伝える仕事”をしている人が、説明をするときに何を意識し、どんなテクニックを使っているのかもお伝えしていきます。
アナウンサーとはいえ、私たちが使っている手法は、決してテレビの世界だけで使えるものではありません。むしろ、日常の仕事や生活シーンでこそ役に立つといえます。(「はじめに」より)
そんな本書の第2章「伝わる説明の公式」のなかから、興味深いトピックスを抜き出してみましょう。
ロジカルに伝わる説明の公式
「ゴール」「理由」「事例(詳細)」という3つの要素を入れると、説明は必ずロジカルになるそう。つまりロジカルな説明とは、「なにがいいたいのかゴールが明確」で、「理由がハッキリ」していて、「それを裏づける事例や詳細な情報で捕捉されている」ということです。
そして著者はここで、これら3つの要素を含めた“日常で使いやすい説明の公式”である「GREAT話法」を紹介しています。「Goal(ゴール)」「Reason(理由)」「Example(具体例)」「After That(その先の未来)」という4つの要素で構成されたもの。
まず明確にGoal=「聞き手にしてもらいたい行動」を伝え、次にReasonで「行動してもらう理由」を伝え、Exampleでは「どうやって行動するのか」を具体的に示し、最後のAfter Thatでは最初に伝えたGoalを達成することによって、「その先の未来」を伝えて締めくくるわけです。
たとえば、資料のコピーをお願いするときにGREAT話法を使うと、次のようになります。
Goal(ゴール):「この資料、10部コピーしてくれる?」
Reason(理由):「14時からの会議でクライアントに配らないといけないんだ」
Example(具体例):「両面印刷のカラーで、クリップで留めて1部ずつファイルに入れてもらえると助かります」
After That(その先の未来):「このプレゼンが成功したら、お礼にご馳走するから!」(59ページより)
最低限の理由と事例で動いてもらい、最後には明るい未来やご褒美を用意。そうすることでモチベーションを上げて締めくくるのです。
押さえておくべきポイントは、説明における「テーマ」と「ゴール」の違い。「テーマ」は「〇〇について」という話の概要で、ゴール」は「その説明をすることによって聞き手にしてほしい行動」を指すわけです。(58ページより)
ゴールを明確にするための2つのルール
聞き手に行動を起こしてほしい場合は、できるだけ具体的に、かつイメージしやすい形でゴールを設定することが必要。そしてゴールを明確にするためには、次の2つの要素が求められるそうです。
① 「何を」するのか
② 「どうやって」するのか
(66ページより)
この2つがない説明は、最終的な目的(ゴール)を達成できない可能性が高くなるということ。
たとえば、「経費を削減する案を出してもらう」ことをゴールに設定するとしましょう。その場合、次のように要素を具体的にして伝えると、実行に移しやすくなるわけです。
① 「何を」するのか → 各部署の経費を前年比5%カット
② 「どうやって」するのか → 接待交際費、会議費、雑費の項目の見直し
(67ページより)
とくに「どうやって」の部分は、行動できる形で具体的に説明するべき。そうでないと、話し手と聞き手の考えにズレが生じてしまう危険性があるからです。
例として、経費削減をお願いするときに、削減額だけ伝えた場合で考えてみましょう。
話し手は「まずは無駄な部分から削ってほしい」と考えていたとしても、聞き手は「一気に大きく削れるところからカットしていこう」と考えて、主要な経費をいきなり削るかもしれません。(66ページより)
そればかりか、そもそも「無駄な部分」が一致しているかどうかもわからないため、齟齬が生じる可能性が多いわけです。そこで、自分のなかに明確な意図や指定があるなら、それを具体的に伝えることが重要な意味を持つということです。(66ページより)
テレビの伝え方におけるテーマは、「いかに説明を楽しく、聞きたいものにするか」ということだといいます。そうした考え方をベースに持つ本書で紹介されているテクニックは、日常の仕事においても大きく役立ってくれることでしょう。
Source: 総合法令出版