女友達との愉快な人生をずっと続ける方法を描いた作家の小林早代子がR-18文学賞の審査員を務める柚木麻子と語る

対談・鼎談

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たぶん私たち一生最強

『たぶん私たち一生最強』

著者
小林 早代子 [著]
出版社
新潮社
ジャンル
文学/日本文学、小説・物語
ISBN
9784103517627
発売日
2024/07/24
価格
1,760円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

ずっと「おもしれー女」でいるために

[文] 新潮社


小林早代子さん(左)と柚木麻子さん(右)

女友達と一生暮らせたら、ゼッタイに楽しいはず! でも、性欲はどうする? それに、いつかは子どもだって産んでみたい……「女による女のためのR-18文学賞」出身の小林早代子さんが6年ぶりの新刊で書いたのは、女友達との愉快な人生をずっと続ける方法。現在R-18文学賞の審査員を務める柚木麻子さんをお迎えし、最高で最強な女たちの未来について、これでもかと語り尽くします。

新しいシスターフッドの物語

小林 今日はお越しくださってありがとうございます。柚木さんにお会いできるのを凄く楽しみにしていました。実は今アメリカに住んでいて、これよかったらお土産なんですが……。

柚木 わぁ、『フレンズ』の名場面トランプ! ありがとうございます。私、これ二つ持ってます。

小林 えっ! これってそんな定番土産だったんですか? 奇をてらったつもりが(笑)。

柚木 私が海外ドラマ好きで有名だからか、作家さんたちが『フレンズ』や『ギルモア・ガールズ』グッズをお土産でくれることが多いんです。でも、この絵柄は持っていなかったので嬉しい! 

小林 バージョンが色々あるんですね。被らなくてよかったです。

柚木 小林さんは2015年に第14回R-18文学賞読者賞を受賞されましたが、その時は、たしか地下アイドルのお話を書かれていましたね。

小林 はい、その時の受賞作を収録した『くたばれ地下アイドル』が2018年に本になり作家デビューしました。一昨年、R-18の授賞式でお会いした際に、柚木さんが本の感想を色々話してくれましたよね。その言葉があまりにも嬉しくて、家に帰ってから日記に書きました。

柚木 私、あのお話大好きでした。

小林 ありがとうございます。第1作から少し時間は掛かっちゃったんですが、今回ようやく2作目を出すことができました。

柚木 新刊『たぶん私たち一生最強』(以下、『一生最強』)、私も早速読ませていただきましたが、いや、ほんとうにすっごく面白くて。すばらしかったです。

小林 ありがとうございます。今の言葉も忘れないうちに日記に書いておきます!

柚木 『一生最強』は20代後半の女性4人が主人公の、シスターフッド要素のある連作短編集ですよね。

小林 はい、高校の同級生だった花乃子、百合子、澪、亜希の4人が、「みんなで暮らしたら最強じゃない?」と思いつくところから、実際に住み始めた後までを書きました。

柚木 かつて「女がつるむ」ということが悪だった時代が明らかにあったんです。そこに22年前R-18文学賞が生まれ、現在にいたるまでの間に文学の世界が変わった実感があります。今やシスターフッドの物語が溢れて、女性たちの友情が市民権を得た中で『一生最強』は今までとは違う、新しい女性たちの物語だなと感じました。

小林 どの辺を新しいと感じて下さったのか、お聞きしてもいいですか?

柚木 これまでのシスターフッド小説って、「私たちはあの夜最強だった。今ではそれぞれ別の道を歩んでいるけれど、あの夜の輝きは忘れない」という結末のお話が多かったと思うんです。でも、本作はその翌日から話がスタートする。おもしれー女達が、年を重ねてもおもしれー女のまま一生一緒に暮らすにはどうしたらいいのか、ここまで書き尽くした小説は、はじめて読みました。

小林 私自身も親友とルームシェアしていた頃、毎日寝る1秒前まで面白いし生活もものすごく快適で、なんでこの暮らし一生やっちゃいけないんだっけ? と疑問に思うことがよくあったんです。その度に、ああ、うちら2人じゃ子ども産めないからか、と我に返ることになるんですけど。この作品では、そういった生殖や性愛の問題を男性抜きでどうクリアして女友達との愉快な人生を続けていくかを真剣に考えて書きました。

柚木 同居生活の楽しい部分だけでなく、途中ふっと気持ちが冷める瞬間や、いつまで面白い女で居続けなきゃいけないんだろうかと悩むところ、更にそんな女達を、その娘が一歩引いて見た視点まで描いているところも良かったです。『若草物語』や『赤毛のアン』のように、女が生きる知恵が詰まっている、まさに古典になり得る作品だなと思いました。

小林 これでもかというほど褒めていただいて……! それで言うと、柚木さんは一生面白い女側の人間というイメージがあるんですけど、どうですか?

柚木 面白い女でいるのって、周りが面白いって言ってくれないと成立しないとこがあるじゃないですか。私は女子校で甘やかされて10代を終え、そのあと小説家仲間によって甘やかされてここまできちゃった。多分一般社会に出ていたら、どこかで折られて面白くない女になってましたね。周りにいた人たちが、私を面白い女でいさせてくれたように思います。

小林 確かに。面白い女でいるためには環境が大事ですよね。

柚木 そうそう。小林さんご自身は友達とかみんなで、わーっとやってるようなタイプなんですか?

小林 私もこの作品のように女4人でずっとつるんでいて、そのメンバーでいるときは、それこそおもしれー女でいられるんですけど、職場とか、男性といるときとか、一歩外に出ると全然面白くないなって。

柚木 わかりますよ。仲間内だと最強でいられるんですよね。『一生最強』の登場人物の中では誰が一番自分に近いと感じますか?

小林 少女漫画家の花乃子っぽい部分と、仕事が冴えない亜希っぽい部分が、半々ぐらいです。

柚木 花乃子、私すごく好きなキャラです。彼女が描いてる少女漫画って、めちゃめちゃ花乃子っぽいタイトルじゃないですか。

小林 オレキス(「オレンジの午後にじゃじゃ馬のキス」)ですか?

柚木 そうそう、オレキス!

小林 私は生粋のりぼんっ娘なので、種村有菜先生の初期の名作読み切り「雨の午後はロマンスのヒロイン」、通称「雨ロマ」の語感をイメージしました。ライフステージによって作風を変えたりしながらも、花乃子には末永く描き続けていってほしいなと思います。

新潮社 小説新潮
2024年9月号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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