『子どもと女性のくらしと貧困』
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<書評>『子どもと女性のくらしと貧困 「支援」のことばを聞きに行く』中塚久美子 著
[レビュアー] 小林美穂子(「つくろい東京ファンド」スタッフ)
◆当事者の尊厳回復のため
壮絶な体験談がつづられる。
何年も続く夫からの苛烈で執拗(しつよう)な暴力。矛先は子どもにも及び、加速していく。追い詰められた母に中学生の息子が言った。「俺が(父親を)刺す」。その言葉で母親は我に返り、はじめて他者に助けを求めた。
今でこそ広く知られるようになったDV(ドメスティックバイオレンス)だが、行政機関ですら、その理解度はまちまちだ。行政や民間の相談窓口は増えても、傾聴に終始する窓口もあれば、あちこちたらいまわしにされるだけで、事態が何も改善しないことも。そうこうしていくうちに母子は疲弊し、諦めていく。生活はみるみる逼迫(ひっぱく)していく。命がけで暴力から逃避したあとには、生活困窮という出口の見えないトンネルが黒い口を開けている。
著者の中塚久美子さんは新聞社に勤務、10年前から子どもや貧困問題を取材してきた。本著は中塚さんが出会った「シンママ大阪応援団」の寺内順子さんと市民ボランティア団体「シェアリンク茨木」の辻由起子さん、そして2人と共に歩む人々へのインタビューで構成されている。
両氏はつながった女性たちの味方になることを迷わない。安心できる環境を整え、美味(おい)しいご飯を食べてもらい、そして動く。女性たちと伴走しながら、具体的に困りごとを一つ一つ解決していく。女性たちと関係を築き続けながら、行政に働きかける。党派を超えた政治家に当事者の声を訴え続け、霞が関にも頻繁に足を運び、制度の拡充を求める。子ども食堂やフードバンクに補助金を出せば良いと考える政府に「そこちゃうねん!」と容赦なくツッコみ、困窮から抜け出せないようになっている制度設計こそが問題であると鋭く指摘する。
一貫して当事者の尊厳回復に努め、発信し、彼女らの生活を文字通り支える。そんな2人の後ろには、主人公である沢山(たくさん)の女性たちや子どもたちの姿が見えるようだ。地獄を生き延びて、再び自分たちの足で歩きだす女性たちの姿が。
(かもがわ出版・2200円)
1971年生まれ。朝日新聞記者。子ども、貧困問題の専門記者。
◆もう一冊
『子育て罰』末冨芳(かおり)、桜井啓太著(光文社新書)