『ワイルドシングス VHSジャケット野性の美』
- 著者
- 桜井 雄一郎 [著、編集]/スティングレイ [著、編集]
- 出版社
- スティングレイ
- ジャンル
- 芸術・生活/演劇・映画
- ISBN
- 9784909717054
- 発売日
- 2024/07/22
- 価格
- 3,960円(税込)
書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます
「話題作」「有名監督作品」とは一線 洋画の奇天烈デザインの思い出
[レビュアー] 都築響一(編集者)
レンタルビデオ屋に行かなくなってどれくらいたつだろうか。ピークの1995年に1万2454軒あった全国のレンタルビデオ屋が2023年末には2384軒(JVAレンタルシステム加盟店のみ)、5分の1だ。『ワイルドシングス VHSジャケット野性の美』は、ほぼ絶滅種となったVHSビデオソフトのパッケージを飾った洋画のジャケット115点を、原寸に近いサイズで収めたマニアックな資料本。
収録されている洋画ビデオはおもに80年代の作品で、それも「だれでも知ってる名画」は皆無。邦題の五十音順に収録されているが、「愛欲のえじき」「悪魔のゴミゴミモンスター」「悪魔の毒々ゾンビーズ」……と並べただけで、この分厚い一冊にみなぎる場末感がおわかりいただけるかと。
配信でピンポイントに観たい映画を観られる以前、レンタルビデオ屋の棚には見たことも聞いたこともない作品がいっぱい並んでいて、「5本でいくら」みたいな料金体系のおかげで、あるいはエッチなビデオだけ借りるのが恥ずかしくて、「知らないけど一緒に借りてみた」映画が意外にもおもしろかった、みたいな経験をお持ちの方、いるでしょう。
レンタルビデオには映画館で公開しないでいきなりビデオになった作品がいっぱいあって、そういうのは情報も少なかったので、「話題の大作だから」「監督が有名だから」とかではなく、パッと見でおもしろそう!というジャケットづくりがすごく重要だった。なのでこういう泡沫(失礼)作品ほど、実は刺激的なデザインや、原題とかけ離れた奇天烈邦題が採用されたりしていた。著者いわく、そうした「誰もが手に取ることのできた“失われた芸術”」を生み育んだ、在りし日の映画の作り手、配給会社の担当者、ビデオ屋の店員、常連客たちによる静かに熱い連帯感を、このコレクションは思い出させてくれるのだった。