『義父母の介護』
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タテマエ無しのリアルな介護
[レビュアー] 渡邊十絲子(詩人)
「もうすぐ介護」世代に、村井理子『義父母の介護』をすすめたい。親がおとろえると自分の生活がどう変わるかが、リアルに描かれている。あまたある介護記録は上品に「消毒」されていることが多いが、これは毒ありの純正品。
脳がおとろえると自分の状態を把握できなくなる。ケガしている、だまされているなどの判定がゆるくなるので、家族によるチェックが欠かせない。「できていない」ことを指摘するのは困難だ(自覚がないので、指摘を「言いがかり」と感じて逆上する)。家族は24時間対応を強いられ、ブラック企業に勤めたように消耗し、これがいつまで続くのかと恐怖に震える。
リモコンや鍵などを見つけられなくなって、つねに不機嫌。ワクチン接種などに連れ出すときの説得は二度手間どころか二十度手間ぐらいになる(納得も同意もすぐ忘れる)。「本人がいちばんつらい」のはその通り。でも頻回の電話や止まない怒号に家族は疲弊する。どこの家庭にもほぼ同じことが起こります。ここが家族にとっていちばんつらい段階なのに、著者の「お笑い」センスが関係者全員を救っている。茶化してもふざけてもいいのだ、みんながクスッと笑えれば。それだけで雰囲気がガラッと変わり、きょうをやり過ごすことができる。
絶望的な状況をこれだけユーモラスに描き、そのうえ「介護している自分も大切にしなければ」というメッセージまで発信している著者は偉大だ。