『料理からたどるアガサ・クリスティー』
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『料理からたどるアガサ・クリスティー』カレン・ピアース著
[レビュアー] 池澤春菜(声優・作家・書評家)
ミステリの女王は、健啖(けんたん)の女王でもあった。
以前、クリスティーの作中に出てくる料理を再現したアフタヌーンティーをいただいたことがある。飲み物の中に「ダブルクリーム&ミルク」という、生クリームと牛乳を一対一で混ぜたものが。クリスティーはこれを一日一パイント(五六八ミリ・リットル)も愛飲していたというのだから、驚き。
旺盛な食欲=創作力ではないだろう(だったらわたしは今頃一〇〇冊くらい本を書いているはず!)。でもそのエネルギーの一端に触れるようで興味深い。
クリスティーと食をテーマにした既刊は何冊かあるが、本書の特徴は、料理から入るブックガイドという点。レシピは掲載されているけれど、写真はなし。その代わりクリスティーが生きた時代、料理と人々の暮らしの関わり、作中でどんな役割を果たすかが、クリスティー・ファンならではのブックガイドと厚いリサーチで描かれている。
とりあえず「ダービー競馬の日に食べるイチゴのホイップクリーム添え」あたりから試してみよう。もちろん黒魔術も殺人事件もなしで。富原まさ江訳。(原書房、2530円)