『左利きの歴史』
- 著者
- ピエール=ミシェル・ベルトラン [著]/久保田 剛史 [訳]
- 出版社
- 白水社
- ジャンル
- 歴史・地理/外国歴史
- ISBN
- 9784560092996
- 発売日
- 2024/07/01
- 価格
- 3,960円(税込)
書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます
『左利きの歴史』ピエール=ミシェル・ベルトラン著
[レビュアー] 小池寿子(美術史家・国学院大教授)
左利きに対する偏見と評価の歴史を詳(つまび)らかにしたユニークな一冊。
ユダヤ・キリスト教では、祝福を与える神の右手は絶対的な権限をもつ。右を善・聖・吉、左を悪・不浄・凶とする宗教的二元論が根底にあるとはいえ、比較的寛容だった中世を経て、左利き蔑視(べっし)が決定的になるのは、礼儀作法を重んじる階級社会が形成される16世紀、とくにエラスムスの『子供の礼儀作法について』(1530年)が起爆剤という。差別の具体例を挙げながら20世紀初頭までを詳述する中で、特筆すべきは「犯罪学の父」ロンブローゾの犯罪と左利きの関係を分析した『犯罪人論』(1876年)の影響だ。
しかし、第一次大戦で右手を失った者の社会復帰への取り組みに始まり、1960年代以降、左利き容認への大きなうねりが起こる。付録の画家リストにも並々ならない著者の左利きへの偏愛が溢(あふ)れている。
なぜ、と問わずにいられないが、自身が左利きの美術史家とカミングアウトすると一気に氷解する。多様性を高らかに謳(うた)う今日に至る道のりも考えさせられる書だ。久保田剛史訳。(白水社、3960円)