『証言 小選挙区制は日本をどう変えたか 改革の夢と挫折』久江雅彦/内田恭司編著

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証言 小選挙区制は日本をどう変えたか

『証言 小選挙区制は日本をどう変えたか』

著者
久江 雅彦 [著]/内田 恭司 [著]
出版社
岩波書店
ジャンル
社会科学/政治-含む国防軍事
ISBN
9784000616430
発売日
2024/07/01
価格
2,200円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

『証言 小選挙区制は日本をどう変えたか 改革の夢と挫折』久江雅彦/内田恭司編著

[レビュアー] 清水唯一朗(政治学者・慶応大教授)

導入30年 試される国民

 小選挙区比例代表並立制が導入されてから今年で三〇年。政治とカネの問題が再燃したこととあいまって、その功罪をめぐって多くの議論が現れている。

 劇的な改革であった。それにもかかわらず、今日、その評価は高くない。それはなぜか。政治家はもちろん、研究者、政党職員からジャーナリストまで、制定にかかわり、戦ってきた人々が語る。

 効果はあった。政治にかかるカネは一桁少なくなり、地元でのサービス競争も落ち着いたと与党議員は語る。政権交代を実現させたと評価する向きもある。

 議員の質については見解が分かれる。政治活動に専念しやすいと肯定する者もあるが、一人で全てを受けるのがしんどく専門性を育みにくい、イエスマンばかり生んだと否定的な声が溢(あふ)れる。

 しかし、すべてを選挙制度に帰着させてよいのだろうか。小選挙区制を批判する論者は党執行部が強くなり過ぎたと指弾する。しかし、それは選挙制度だけでなく、その後の中央省庁再編と官邸機能強化との相乗効果から生まれたものだ。

 政治とカネの問題も止(や)まない。大派閥が問題を深刻にするという興味深い指摘もある。制度は単体ではなく複合体として機能する。現状は、三〇年にわたる改革の時代の産物なのだろう。

 当時は政治とカネの問題が批判され、長期政権を打破し、政権交代を可能とすることが解法とされた。それはまさに熱病のようであったが、その後のヴィジョンを欠いていたと当事者は嘆く。

 現在はどうか。政治とカネの問題は続くものの、それに縛られず広い視野での議論が見られるのは光明だろう。

 本書からも数多くの論点が得られる。例えば、複数の論者が中選挙区連記制や同比例代表制の導入を主張する。人材の多様性と穏健な連立による政権交代を両立させる提案だ。二大政党間の政権交代より時代に適(かな)うようにも思われる。

 この三〇年の展開は、政治が変わるには国民が変わる必要があることを示した。国民が動けば議員も動くものだ。三〇年目の試験が今、始まろうとしている。(岩波書店、2200円)

読売新聞
2024年9月6日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

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