『検証 政治とカネ』
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<書評>『検証 政治とカネ』上脇博之(かみわき・ひろし) 著
[レビュアー] 内田誠(ジャーナリスト)
◆民主主義を守る執念の告発
「政治とカネ」の問題を取り上げたテレビのニュース映像を観(み)ていて、頭にバンダナを巻いた人物がしばしば原告側の一人として記者会見に応じているのに気付いたことはないだろうか。その人物こそ、本書の著者である上脇博之氏であり、この本は直近の「政治とカネ」問題、自民党派閥による「政治資金パーティー裏金事件」をきっかけとして書かれたものだ。
因(ちな)みにバンダナは、「政治とカネ」問題に対する著者の執念の証しとなっているようだ。「これまでに何件の刑事告発をしてきたのか正確には数えていないのですが、100件を超えている」と言う著者は、大学教授であり、市民団体「政治資金オンブズマン」の代表、公益財団法人「政治資金センター」の理事も務めているから、告発「100件以上」といっても怪しむに足りない。しかし、法の「抜け道」を探り、あるいは違反してでも多額の「裏金」を手にしようと画策する政治家たちに対して、一つ一つの事例に刑事告発を行っていくなど、並大抵のことではない。
今回、「しんぶん赤旗日曜版」のスクープに端を発し、朝日新聞の「裏金」スクープで大事件に発展した自民党派閥による「政治資金パーティー裏金事件」についても、著者は独自の調査を行い、自民党の各派閥に対し、政治資金規正法違反で告発を行っている。「裏金」についての国民の怒りが続けば、やがて行われる総選挙や参院選の結果に重大な影響が及び、日本政治の歴史的大転換に帰結する可能性があるというのが、著者の示す展望だ。
本書には、「政治とカネ」を巡る問題の歴史と構造について解説した専門書の趣もある。読者は小選挙区制と政党交付金を生み出した「政治改革」の罪深さを、今更ながら強く印象づけられるだろう。裏金は「知る権利の保障と民主主義の原理に反する」ゆえに憲法違反であり、企業献金にしても本質は「形を変えた賄賂」にほかならないと、著者は喝破している。
(岩波新書・990円)
1958年生まれ。神戸学院大教授・憲法学。著書『政党国家論と憲法学』など。
◆もう一冊
『権利のための闘争』イェーリング著、村上淳一訳(岩波文庫)