『論点思考×累計1万時間の実践知 ファシリテーションの正攻法』
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【毎日書評】職場での希少価値が高まる。よりよい会議に導く「ファシリテーション」スキルの基本
[レビュアー] 印南敦史(作家、書評家)
『論点思考×累計1万時間の実践知 ファシリテーションの正攻法』(田中大貴 著、総合法令出版)の著者は、M&Aや戦略に関するコンサルティングが専門だというコンサルタント。つまりは日常的に、M&Aや戦略の検討に関してクライアントと議論を重ねているわけです。
そして、そんななかで求められるのがファシリテーション。いうまでもなく、会議の議論をファシリテートする(円滑に進める)ことであり、コンサルタントには必須の技術であるといっても過言ではないそうです。
本書では、私が経験してきた、累計およそ1万時間のファシリテーションを通して蓄積した「ファシリテーションの極意」を余すことなく解説しています。私がこれまでに研修でお伝えしてきた内容がベースとなっています。
本書で解説した内容を身につければ、一生食いぶちに困らない…かどうかは分かりませんが、少なくとも今の職場で希少価値は高まることでしょう。そして、会議における議論だけではなく、今抱えている仕事自体も“ファシリテートされる”(円滑に進められるようになる)はずです。(「はじめに」より)
なお、本書で解説されている内容は、すべて著者自身が日々の仕事のなかで使っているツールであり、指針にしている考え方なのだとか。クライアントと議論するなかで、実際に使えたもの、有効に機能したもの、汎用的に使えたものだけを選抜しているというのです。
そういう意味では、(私の経験を信じていただけるならば)本書は非常に実践的であり効果的であると思っていただいて間違いありません。(「はじめに」より)
きょうはそんな本書のなかから、第1部「ファシリテーションの鉄則」内の第1章「ファシリテーターとは?」に焦点を当ててみたいと思います。
ファシリテーターの役割
会議の場において、高確率でしっかりと議論をして結論を出したいのであれば、ファシリテーターは必須であると著者は断言しています。これからはもっと必須になっていくとも述べていますが、はたしてそれはなぜなのでしょうか?
それは、一言で言うと、世の中の問題解決が難しくなってきているからです。
一昔前こそ、欧米型の経営知識で現状を整理し、あるべき論を打ち立てれば、それが正解と呼ばれていたかもしれません。しかし、今の時代、問題はあらゆる要素が絡み合い、一筋縄では解決ができなくなっています。学校で学べるような経営手法やフレームワークを使えば簡単に正解が出るような単純な時代ではないのです。(20ページより)
たしかに現代においては、時代や環境の変化とともに人々の趣向も変わり、各業界でのルールも徐々に変化していきます。きのうまで“正解”だったことが、気づけばいつの間にか“不正解”になってしまうことも往々にしてあるわけです。
では、そういった時代に必要なものは? この問いに対して著者は「適応力」であると答えています。
市場の変化にいち早く気づけるか、その変化が生じている理由に対して鋭い仮説が出せるか、その仮説に基づいて適切な行動ができるか。そして、当初設定した仮説が間違っていれば、迅速に軌道修正ができるか。
ダーウィンが『種の起源』で用いた概念として、「適者生存(survival of the fittest)」がありますが、組織間における生存競争においても同様で、環境に最も適したものが生き残るのではないでしょうか。(21ページより)
だからこそ会議においても、明確な論点を定め、参加者から有益な意見を引き出し、現時点における「もっとも妥当な解」を導きだせるスキルが必要。それがファシリテーションであり、それが組織の「適応力」を担保することにつながるということです。(18ページより)
「よい会議」を定義できていますか?
ファシリテーションについて考えるにあたっての大前提として、「よい会議」というものを定義しておく必要があると著者はいいます。「よい会議」を自分のことばで定義して、しっかりイメージを持つことが大切だということです。
どれが正しくて、どれが間違っているのかということではありません。人によっていろいろなイメージがあると思います。「良い」という表現は、相対的であり主観的です。なので、何と比べて良いのか、誰にとって良いのか、それらとセットで考えないと、「良い」が独り歩きをしてしまうのです。(25ページより)
なお本書では「よい会議」を、「参加者から、あらゆる知識・知見・経験を集め、建設的な衝突を行うことで、全員が“納得できる解”をつくりあげる場」と定義しています。そしてそこには、3つのポイントがあるそうです。
1つ目のポイントは、会議にあらゆる情報を集めること。ファシリテーターは参加者から意見を引き出し、整理していく必要があるわけです。
2つ目は、論点ベースで互いの仮説をぶつけ合い、意見を昇華させること。いわば「建設的な衝突」です。
3つ目は、議論を経て出た結論に対し、参加者全員が納得できること。ただし、納得の前には“理解”というハードルがあるので、これがいちばん難しいかもしれません。しかも「よい会議」では、強引に意見を通すことは、あってはならないのです。
著者が「よい会議」を「参加者から、あらゆる知識・知見・経験を集め、建設的な衝突を行うことで、全員が“納得できる解”をつくりあげる場」と定義している理由は、いまの時代において、「唯一の正解」は存在しないから。
もし、“解”があるとすれば、それは現時点で「最も妥当な解」でしょう。会議において重要なのは、正解を模索する姿勢ではなく、議論を通して、最も妥当で、全員が納得できる解を抽出する姿勢なのです。(27ページより)
だからこそ重要なのは、発言者の意見を全員が「理解」できるように、ファシリテーターが理解を“伝播”させること。ただしそれだけは不十分で、「理解」の先にある「納得」を促すためには、議論成果だけではなく、「どのようにして議論していくか」というプロセスが重要だといいます。
なぜなら人は、一方的に決められたことやいわれたことに対して、理解はできても納得はしにくいから。
けれども、自分がゼロから関わり、議論を重ねて決まったことなら納得できるはず。いわば、それがファシリテーションでもっとも重要な根本思想。したがってファシリテーターは、「人は、自分が関与してこなかったものには納得しにくい」ことを意識しておく必要があるわけです。(24ページより)
ファシリテーションを聞くだけで「難しそう」だと抵抗感を持ってしまう方にとって、基本から応用までをわかりやすく解説した本書はきっと役立ってくれるはず。会議の質を上げるために、ぜひとも活用したいところです。
Source: 総合法令出版