『なぜか仕事が速い人の ずるいメール術』
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【毎日書評】仕事ができる「ずるい人」がやっているトラブルを回避するためのメール術
[レビュアー] 印南敦史(作家、書評家)
「誤字があるのに、なぜか評価されている」とか、あるいは「10分かかるメールをサクッと5分で送っている」など、メールにそれほど時間をかけているわけでもないのに、なぜかコミュニケーションがうまくいっている人がいるものです。
そんな人を見ると、「自分のほうががんばっているのに、なんであの人だけが」と嫉妬心を抱いてしまうかもしれません。しかし、一般社団法人日本ビジネスメール協会の代表理事である『なぜか仕事が速い人の ずるいメール術』(平野友朗 著、PHP研究所)の著者によれば、それは「がんばり方が違うだけ」のことなのだそうです。
ビジネスメールはがんばるものではなく、むしろ、がんばらずに最低限の力を使って最大の効果を狙える「ビジネスのずるい武器」だというのです。
本書では、周囲から「いいなぁ」「うまいなぁ」「なんであいつが!?」と思われている「メールのうまい人」を「ずるい人」と言い換えて解説していきます。(「はじめに」より)
つまり、ここでいう「ずるい」は否定的な意味ではなく、肯定的なニュアンスが含まれたものであるということ。そしてここでは「ずるい」をテーマとして掲げつつ、メールのノウハウをまとめているわけです。
著者は、多くの人がメールについての「正解」を求めようとすることに違和感を覚えていたのだといいます。なぜなら正解に縛られてしまうと、メールの本来の目的が見えなくなってしまうから。
そしてその結果、がんばる方向性を間違ってしまっている人が多いとも感じたのだとか。すなわち本書は、そんな方々のために書かれているのです。
きょうは4章「ピンチをチャンスに変える!『メール対応の鉄則』」のなかから、トラブルを避けるために必要な2つの要点を抜き出してみたいと思います。
ずるい人は、怒りをコントロールする
「一方的に悪者にされた」とか、「自分の非を認めず、攻撃的な対応をされた」とか。メールを受け取ったとき、その内容にイラッとしたというような経験は誰にでもあるものではないでしょうか。メールの文章はとかく攻撃的になりがちなので、決して珍しいことではないともいえそうです。
しかし当然のことながら、そこでいい返すことはNG。それでは、こちらが不利になってしまうからです。
たとえば、次のような場面を考えてみましょう。
打ち合わせの段階では「100万円くらいで」と相手に言われていた案件があったとします。
翌日、あなたは言われた通り、100万円で見積もりを出しましたが、相手に「その条件だと導入できない。なんでそんな金額を出してきたんだ」と言われてしまいました。(151ページより)
打ち合わせでのことを考えれば、明らかに納得できない返答です。では、こんなときにはどう返すでしょうか? 理不尽なことをいってきた相手を非難し、真正面から反論するでしょうか? 気持ちはわかりますが、しかし合理的に考えてみると、戦うメリットが一切ないことに気づくはずです。
見積もりを出したこちら側のゴールは受注なのですから、相手と喧嘩をしたり、論破したりしたとしてもゴールにはたとりつけないわけです。
それならば、ゴールに少しでも近づけるように「どんなメールを書いたら、相手は導入に前向きになってくれるだろうか」と考えて、適切なコミュニケーションをとるべきです。(152ページより)
メールは自分のいいたいことを簡単に伝えられるツールだからこそ、怒りにまかせて伝えたいことをそのまま書いてしまい、あとで絶望的な気分になってしまうことも考えられます。
気持ちが収まらないのなら、素直に声をかけて対話の機会をつくればいいのです。
「このままメールで書くと喧嘩になりそうなので、直接お話ししたいと思います」
「大きな行き違いがあるようなので、直接お話をさせていただけませんか」(153ページより)
売り言葉に買い言葉となってしまわないように、メールが苦手な人はとくに、直接話すようにすることも大切だということです。(150ページより)
ずるい人は、記憶を信用しない
人の記憶は曖昧なので、「いった、いわない」のトラブルは起こりがち。相手が覚えていなかったという以前に、そもそも聞こえていなかったと言う可能性もあるかもしれません。
ずるい人は、「言った、言わない」のトラブルを未然に防ぐために、全ての情報をメールに残しています。
また、こうした証拠のおかげで、平和的に解決することができます。(155ページより)
メールに残すことは、相手に確実に動いてもらいたいときにも使えるといいます。
例えば、打ち合わせなどで、相手に対して要望を伝えたり、仕事をお願いしたりするとき。
相手も要望や依頼は頭に入っていても、期限や役割分担などの、細かい情報がちゃんと伝わっていなかったり、忘れられてしまったりすると、確実にほしいものが返ってきません。(155ページより)
しかしメールを送ることによって、こちらが「伝えた」と言う事実や内容がデータに残ります。また、相手の返信によって「確実に伝わっているかどうか」を確認することも可能。それらは対面や電話ではなかなか読み取りづらい部分であり、メールならではの利点だということです。
メールに残っている証拠は、相手と議論や喧嘩をするためのものではなく、仕事を円滑に進めるために使うもの。したがって、お互いを守るために正しく使うことが大きな意味を持つわけです。(154ページより)
本書の知識を吸収すれば、もっと「楽」に、「ゆるく」メールと向き合えるはずだと著者は述べています。仕事を効率よく、効果的に動かしていくためにも、参考にする価値はありそうです。
Source: PHP研究所