『イーロン・マスクを超える男 サム・アルト マン』
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『イーロン・マスクを超える男 サム・アルトマン』小林雅一著
[レビュアー] 佐藤義雄(住友生命保険特別顧問)
AI界の寵児の素顔は
OpenAI社のCEOとして、ChatGPTなどの生成AIの開発で世界をあっと言わせ、AI向け半導体開発においても度肝を抜く計画で主導権を握ろうとしているのではといわれるのがサム・アルトマンだ。彼はアメリカ大統領のみならず、日本の岸田首相をはじめ、世界中の要人と次々と会談するなど、瞬く間に世界中に知られるAI界の寵(ちょう)児(じ)となった。
今や世界のリーダー達(たち)と同等か、それを超える存在感を示すアルトマンは一体いかなる人物で、AIの開発をどのように捉えているのか。世界ではAI開発について、自国や自分の利益のためならルールなどは不要とする国や人々も存在する一方、逆に危険性を排除するために厳しい規制が必要という「警戒主義者」もいる。彼はAIは人類をクリエイティブにするものだから、その開発を阻害する過剰な規制や極度の慎重姿勢には反対する反面、大きな危険性を排除する規制は必要とする現実主義を語る。覇権を握ろうとする大手IT企業と組むのは創立の理念に反するという意見があったにも拘(かか)わらず、マイクロソフト社と提携したのは、AI開発には巨額の資金が必要という彼の現実主義に基づく決断からだろう。その童顔の風(ふう)貌(ぼう)とは裏腹に政治的手腕にも長(た)けているようだ。
有名なアルトマン解任劇は社内の「警戒主義者」とのせめぎ合いで起きたことだが、アルトマンはしたたかに振る舞いその地位を保った。
バランス重視の「中立派」か、警戒主義者が言うような開発「加速主義者」が正体か。人類を幸福にするヒーローか、あるいはディストピアに導く人物か。アルトマンが何を考え行動するかが今後とも生成AI開発を左右すると考えられるだけに、彼の動向をライバル達や世界中の政治家、官僚、学者やメディアは固(かた)唾(ず)を呑(の)んで見守っているだろう。本書は数々のエピソードを交え、彼の言動や人物像を描き出す。多くの方におすすめしたい。(朝日新聞出版、1980円)