それ、過剰敬語です。不自然な「盛りすぎことば」使っていませんか?

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その敬語、盛りすぎです!

『その敬語、盛りすぎです!』

著者
前田めぐる [著]
出版社
青春出版社
ジャンル
語学/日本語
ISBN
9784413047029
発売日
2024/09/04
価格
1,100円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

【毎日書評】それ、過剰敬語です。不自然な「盛りすぎことば」使っていませんか?

[レビュアー] 印南敦史(作家、書評家)

その敬語、盛りすぎです!』(前田めぐる 著、青春新書インテリジェンス)というタイトルを見て「あー、わかるわかる!」と感じた方も多いのではないでしょうか。しかし著者によれば、ここでいう「盛りすぎ」には2つの意味があるのだとか。

一つ目は、過剰な敬語。言葉そのものの盛りすぎです。二つ目は、自分を必要以上に良く見せようとする盛りすぎ。炎上や誹謗中傷を招かないよう自己防衛本能が働くのでしょう。SNS時代ならではの背景が色濃く影響していると考えられます。

(「はじめに」より)

いずれにしても、周囲に気を使いすぎたり空気を読みすぎたりすることで、誤用や誤解が生じてしまうことが少なくないわけです。

ちなみに著者は、自称“敬語マニアのコピーライター”。長年にわたり、ことばをツールとして“生活者と企業のコミュニケーション”を発想し続けてきたのだといいます。

言葉は人と人とをつなぐ糸。ちょっとした違和感があれば、その言葉を解きほぐし、紡ぎ直します。大切なのは、正しさ以上に「ほどのよさ」。盛りすぎないほどよい敬語を生かせたら、目の前にいる相手を大事に思う気持ちをさりげなく表せます。(「はじめに」より)

もちろん、それはビジネスにおいても同じ。盛りすぎないことばを駆使することができれば、ごまかしとは無縁の、本質をとらえた会話が成り立つわけです。

そうした観点から、さまざまな「盛りすぎ」なことばを指摘している本書の2章「その敬語、へりくだりすぎです」から、いくつかをピックアップしてみましょう。

「がんばらせていただきます」

たとえば発注先から「見積もりの額、もう少しなんとかなりませんか」と頼まれたときなどに、「ご希望に添えるようがんばらせていただきます」というような返答をしてしまうかもしれません。しかし、これは典型的な過剰表現。

そもそも「させていただきます」は、「許可を得て行う」と見立てて使う謙譲表現。したがって「がんばらせていただきます」といってしまった場合、「相手が無理強いしたからがんばる」かのようなニュアンスが生まれてしまうのです。

何よりも「頑張る」という行為は、自身の強い意志によるもの。文法云々ではなく、こうした内面に関する言葉は直接の敬語にはなりにくいのです。さらに、他人の許可を得ることでもないため、「させていただく」という言葉とはなじみません。

その上で、発注先に対して丁寧に述べることで感謝の気持ちを表したいわけですね。

「ご希望に添えるよう、精一杯努力いたします」

「ご希望に添えるよう頑張ります」

こう答えれば、賢明で潔い印象を与えるでしょう。

(68〜69ページより)

なお、他人に対して「がんばれ」という方もいらっしゃいますが、「がんばる」は本人の意志に関わることなのですから、それは余計なお世話になる可能性が。そういう場合は、「応援しています」など、応援したい気持ちをさりげなく伝えるほうがよさそうです。(68ページより)

「退院させていただきました」

“へりくだりすぎ表現”の代表格としてすぐに思い浮かぶのも、やはり「させていただく」ではないでしょうか。病欠していた人が退院後に出社した際、「おかげさまで、退院させていただきました」と報告したり、会社を退職した人が「円満退社させていただきました」などとSNSに告知したりすることはよくありますが、これらの表現は過剰です。

「させていただく」を『広辞苑 第七版』(岩波書店)で引くと、こうあります。

“相手の指示を頂戴してするという卑下した形で自分の動作を謙遜した意を表す。最初、上下関係を強く意識する社会で使われ、第二次対戦後一般に広がった言い方”

(74ページより)

つまり上記の例でいえば、退院を許可したのは主治医、退職を許可したのは会社。聞き手に許可をもらったわけではないのに、卑下した形の表現を使うのだとしたら、明らかにへりくだりすぎなのです。そのため、「退院させていただきました」は「退院いたしました」、「円満退社させていただきました」は「円満退社いたしました」とするべき。(74ページより)

「こちらにご記入いただいてもよろしいですか」

この場合、本来であれば「こちらにご記入ください」でいいはず。物足りなさを感じるのであれば「どうぞ」を頭につけて、「どうぞ、こちらにご記入ください」とすれば、ていねいな印象が生まれます。

それにしても、いくら空気を読む時代とはいえ、ここまでへりくだる必要があるでしょうか。人に何かを頼むとき、さまざまな疑問系の依頼文を使うことは、これまでにもありました。

「こちらにご記入くださいますか」

「こちらにご記入くださいませんか」

「こちらにご記入いただけますか」

「こちらにご記入いただけませんか」

「こちらにご記入いただきたいのですが」

こうした単なる依頼の表現なら何の問題もありません。

(84〜85ページより)

しかし、わざわざ「ここに記入してもらってもいいか」と許可を求めているところに違和感があるということです。(84ページより)

「ご紹介の平井さん、うちで雇わせていただきます」

取引先の課長から知人の平井さんを紹介され、「もし可能なら、御社で雇っていただけないでしょうか」と頼まれ、採用が決まったとします。その際、「先日ご紹介の平井さん、うちで雇わせていただきます」という報告は不適切。

お世話になっている相手からの相談となると敬意を込めたいところですが、「うちで雇わせていただきます」には違和感があります。とはいえ「お雇いする」だと、へりくだっているのに上から目線のような、おかしな感じになってしまいます。では、どうしたらいいのでしょうか?

実は、「雇う」という語には、雇ってもらう側から雇う側への謙譲語「雇っていただく」はありますが、その逆がありません。

雇う側が上の立場であるため「お雇いする」「雇わせていただく」とへりくだった表現がそぐわないのです。(98ページより)

そこで、「雇う」のかわりに「採用する」を使うべき。「先日の平井さんですが、採用が決定しました(いたしました)」とすれば、上から目線になることなく取引先に報告できるわけです。(98ページより)

気になるところや興味のある箇所など、どこからでも読める実用的な一冊。手に届くところに置いておけば、敬語の使い方に迷ったときに大きく役立ってくれそうです。

Source: 青春新書インテリジェンス

メディアジーン lifehacker
2024年9月14日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

メディアジーン

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