共通するアイテムが見守るような緩やかで不思議な人のつながり

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  • 赤と青とエスキース
  • 私たちのおやつの時間
  • さいはての家

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共通するアイテムが見守るような緩やかで不思議な人のつながり

[レビュアー] 瀧井朝世(ライター)

 二〇二二年に本屋大賞第二位となった青山美智子『赤と青とエスキース』が文庫化された。

 一枚のエスキース(下絵)をめぐる連作集である。第一章では、オーストラリアに一年間留学したレイが、現地に住む青年と恋に落ちる。別れが迫る頃、レイは画家のモデルをつとめる。そこで描かれたエスキースは、その後数奇な運命を辿っていく。第二章以降は額縁工房の青年や、その絵が飾られた喫茶店で元弟子と対談する漫画家、雑誌の記事でその絵を見かける、輸入雑貨店で働く女性らが主人公。

 悩みや葛藤を抱く主人公たちを、エスキースが見守っているかのよう。最後にはとある驚きの事実が明かされ、読者の胸を打つ。

 アイテムが共通する連作集といえば、咲乃月音の文庫書き下ろし作品『私たちのおやつの時間』(宝島社文庫)もそう。各章に何かしらスイーツが登場するのだ。第一章は、京都でインド人青年と交際する日本人女性が主人公。二人の仲に反対する彼の母親が来日した際、主人公はニンジンを使ったガジャルハルワというインドのスイーツを作ってもてなそうとする。

 他にも、スペインを訪れた女性が口にするポルボロン、香港に暮らすマダムを案じてメイドが作る湯丸など、各地を舞台に世界の“おやつ”が、人々の心をほぐす瞬間が描かれていく。登場人物同士が緩やかに繋がっており、人と人との不思議な縁にも心が温まる短編集。

 家という共通項を持つのは彩瀬まる『さいはての家』(集英社文庫)。舞台は地方の郊外にある一軒の借家。複雑な理由で越してきた人々が、この家に滞在する日々が描かれる連作集。

 駆け落ちした男女、逃亡中の男たち、公安に追われる新興宗教の元教祖、家出した姉妹……。

 章ごとにその家の住人が変わるため、別の章の人々は越していったのだと分かる。現実から逃げてきた人々が、滞在中にどんな心境の変化を迎え、出ていくことになるのか。彼らがその後どうなったのかについて、想像をかき立てる話が並んでいる。

新潮社 週刊新潮
2024年9月26日号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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