『人間』
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これ、あんたのために書かれた本やで
[レビュアー] ピストジャム(芸人)
作中で永山は、「凡人Aの罪状は、自分の才能を信じていること」というタイトルの美術作品を制作する。凡人Aとは、僕のことや。
そんな話を、先日下北沢のバーで先輩のポーズ影島さんにしたら怒られた。
「永山は、その言い回しによって、まだ才能を証明しにいこうとしてもうてんねん。相手に頭下げながら、下げた頭ぶつけに行ってんねん。お前とは違う。いや、お前の苦しみをなかったことにしたいわけじゃないで。自分のことを過小評価すんな。そんなリスクヘッジいらんから自信持て。永山と俺は同一人物やからわかんねん」。そう言うと、影島さんは椅子に座ったままの状態で上半身を奇妙に動かして踊り出した。
この小説は、ピカソが確立した対象をさまざまな面や角度から描くキュビズムという技法で描かれた又吉直樹の自画像や。数人の登場人物にわかれて投影されたその姿は、一切を身にまとわず、すべて色濃く描かれている。でも、やからこそ、自分もおんなじやんと感じざるをえない。
より楽しむなら、今作と同年に公開された映画『ジョーカー』もあわせて観るといい。最前線で戦う表現者のシンクロニシティに震えるはず。