『流警 新生美術館ジャック』
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松嶋智左『流警 新生美術館ジャック』(集英社文庫)を吉田伸子さんが読む
[レビュアー] 吉田伸子(書評家)
シリーズの骨組みが見えて来た!? 第二弾もぐいぐい読ませる
本書は『流警 傘見警部交番事件ファイル』に続く「流警シリーズ」第二作。前作は、県警捜査一課の刑事・南優月(みなみゆづき)が、とある理由から左遷された、過疎地の傘見警部交番を舞台にしていた。そこに、キャリア警視正として赴任して来たのが榎木孔泉(えのきこうせん)で、優月は榎木とともに、事件を追うことに。
前作では、料理好き(玄人はだし!)で、優秀ではあるものの超マイペースキャラとして描かれていた榎木は、印象深くはあったものの、主になるキャラは優月だった。なので、シリーズ二作めは、引き続き、傘見警部交番が舞台になる、と思っていた。
ところが、本作には、優月も傘見警部交番も登場しない。舞台は、とある地方の県立美術館だ。移転、新築となったその美術館の開館式典当日、あろうことか美術館がジャックされてしまう。当初、人質はいないと思われていたのだが、実は、館内に取り残された人物が二人。一人は県知事の代理で式典に出席するために訪れていた秦(はた)玖理子(くりこ)副知事で、もう一人は、県警警備部長の榎木孔泉だった。
榎木、そんなとこで何やってんの? と思ったのも束の間、狐のお面をつけた立てこもり犯たちと、榎木、秦、さらにはもう一人、館内に取り残されてしまっていた小学生女子、三人のスリリングな攻防が始まる。
犯人側の要求は、現金十億と展示作品「藍塩釉花瓶」が盗作であることを公に認めること。これを受け、県警サイドが動き出すとともに、館内の榎木たちと携帯で繋がることで、連携して犯人たちに迫る。犯人たちは犯人たちで、館内に秦たちがいることに気づき、三人を追い詰めていく。
ひょろりと青白く、頼りない外見ではあるものの、キレッキレの榎木の思考も読みどころだが、秦副知事が事件を通じて自身の殻を破るところもいい。もしや、このシリーズ、榎木とバディを組んだ相手の成長も物語の軸にしているのかも。次作の展開にも注目だ!
吉田伸子
よしだ・のぶこ●書評家