『ジェーン・バーキンと娘たち』
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<書評>『ジェーン・バーキンと娘たち』村上香住子(かすみこ) 著
[レビュアー] 中条省平(フランス文学者/学習院大学フランス語圏文化学科教授)
◆4人家族の普遍的なドラマ
昨年7月、フランスの女優で人気歌手のジェーン・バーキンが亡くなった。76歳だった。
日本ではその直後、彼女の娘のシャルロット・ゲンズブールが母を撮った記録映画『ジェーンとシャルロット』が公開され、死の2年前のバーキンの日常の姿を見られた。飾らない人間性がとても魅力的に映っていた。映画は、日本に一緒にやって来た2人の姿から始まる。
この映画製作を手伝い、なにくれとなく母娘の世話を焼いた人が、この本の著者だ。バーキンとの付きあいは40年近くに及ぶ。本書はその交友を細やかに綴(つづ)った書である。バーキンと娘たちの素顔が描かれた、世界初の真摯(しんし)なメモワール(回想録)だといえる。
バーキンは東日本大震災の1カ月後、放射能汚染の危機が囁(ささや)かれるなか、たった1人で日本に来て、復興支援のチャリティ・コンサートを行った。それが愛する日本のために、彼女ができることだったからだ。
この一事をみても、バーキンの率直な人柄は分かる。シャルロットはじめ3人の娘がいて、それぞれ父親が違うというと、奔放な恋多き女というイメージが湧くが、本書を読むと、そうではないことが分かる。何事にも真剣になる性格の表れなのだ。そして、父親の違う娘たちは母を中心に一つの家族を作っていた。
その複雑な家族の肖像が、4人それぞれと交わった著者の視点から描かれる。めったにない家族だが、そこには普遍的な家族の感情のドラマが浮かびあがって、感動的だ。
3人の娘で一番有名なのは女優のシャルロットだが、本書で重要なのは、007のテーマ音楽の作曲家であるジョン・バリーとバーキンの間に生まれた長女ケイトだ。
才能ある写真家だったが、46歳で自死を遂げた。バーキンは肺気腫になりながら、ケイトが写真展を開いた京都を訪れ、娘の足取りをたどる鎮魂の旅を行った。娘の死の謎がバーキンの前向きな人生に影を投げ、そこからは、人間であることのどうにもならない弱さや哀(かな)しみが、おのずと滲(にじ)みだしてくるのである。
(白水社・2970円)
翻訳家、作家、ジャーナリスト。著書『巴里ノート』など。
◆もう1冊
『ジェーン・バーキンの言葉』山口路子著(だいわ文庫)