<書評>『「昭和天皇拝謁(はいえつ)記」を読む 象徴天皇制への道』古川隆久、茶谷(ちゃだに)誠一ほか 著

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「昭和天皇拝謁記」を読む

『「昭和天皇拝謁記」を読む』

著者
古川 隆久 [著]/茶谷 誠一 [著]/冨永 望 [著]/瀬畑 源 [著]/河西 秀哉 [著]/舟橋 正真 [著]/吉見 直人 [著]
出版社
岩波書店
ジャンル
歴史・地理/日本歴史
ISBN
9784000616492
発売日
2024/08/08
価格
2,860円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

<書評>『「昭和天皇拝謁(はいえつ)記」を読む 象徴天皇制への道』古川隆久、茶谷(ちゃだに)誠一ほか 著

[レビュアー] 山田朗(明治大教授)

◆戦争認識巡る率直な対話も

 本書のタイトルにある「昭和天皇拝謁記」とは、戦後の講和前後の時期に初代宮内庁長官を務めた田島道治(みちじ)(1885~1968年)が書き残した、49年から53年にかけての昭和天皇との対話記録である。通常の日記とは異なり、日々の天皇と田島のやりとりだけが記されている。「拝謁記」全文は、日記・関係資料とともに2023年に岩波書店から全7巻の刊行が完結している。本書は「拝謁記」の編集と各巻の解説を執筆した古川隆久氏はじめ6人の研究者と、「拝謁記」の発掘と公開に尽力したジャーナリスト吉見直人(まさと)氏による共著である。

 「拝謁記」における天皇と田島のやりとりは、天皇による戦争の回顧・悔恨、戦後の政治・社会情勢に対する天皇の観察と危惧、「象徴」としての役割の模索、秩父宮ら直宮や旧皇族との確執、皇太子への期待など実に多岐にわたっている。また、田島は、天皇が皇太子を「東宮ちゃん」と呼んだり、「~なんだけどネー」といった語り口をそのまま記すとともに、なかなか戦前的な統治者意識が抜けず、また、軍部強硬派による戦争はどうやっても抑えられるものではなかったといった天皇の弁解的な発言に対する田島自身の回答や感想を、天皇への率直な諫言(かんげん)を含めて記録している。

 本書は全4部・13章から成っており、当時の世界や日本国内の情勢をおさえた上で、「拝謁記」から何が読み取れるのか、天皇と田島の戦争やその戦後の政治に対する考え方、「象徴」としての天皇のあり方をどのように模索していたのかを、テーマごとに体系的かつバランスよく解説している。

 叙述は平易でよく練られているし、時代背景や天皇を取り巻く重要人物についても丁寧な説明が付されて、これから「拝謁記」そのものを読んでみようという人や、天皇の戦争認識を知りたい、象徴天皇制がどのように歩み始めたのかを考えてみたいという幅広い読者の期待に応えるものになっている。近現代に関係する大学のゼミのテキストなどにも最適な一冊であろう。

(岩波書店・2860円)

著者はほかに、冨永望(のぞむ)、瀬畑源(はじめ)、河西秀哉(かわにしひでや)、舟橋正真(せいしん)、吉見直人。

◆もう1冊

『昭和天皇の戦争認識 「拝謁記」を中心に』山田朗著(新日本出版社)

中日新聞 東京新聞
2024年9月22日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

中日新聞 東京新聞

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