『非美学 ジル・ドゥルーズの言葉と物』福尾匠著

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非美学

『非美学』

著者
福尾 匠 [著]
出版社
河出書房新社
ジャンル
哲学・宗教・心理学/哲学
ISBN
9784309231570
発売日
2024/06/24
価格
2,970円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

『非美学 ジル・ドゥルーズの言葉と物』福尾匠著

[レビュアー] 郷原佳以(仏文学者・東京大教授)

芸術論じる哲学の考察

 絵画や音楽など、芸術を論じる哲学は多い。フランス現代思想のジル・ドゥルーズも『シネマ』という二巻の著作を著している。芸術は感性に訴え、哲学は概念を用いて言語で表す。ならば、芸術を論じる哲学は芸術といかなる関係を結んでいるのか。本書の背後にあるのはこの問いである。

 本書は『差異と反復』『シネマ』などの代表作を検討するドゥルーズ論だが、哲学者の議論を説明するだけでなく、そのやり方にもときに容赦なく疑問を突きつけ、ドゥルーズの先で自ら思考している。博士論文を元にしているが、エリー・デューリングなどの現代の哲学者とドゥルーズを対(たい)峙(じ)させ、第4章では平倉圭のゴダール論やドゥルーズ論における対象との格闘の様に肉薄し、自らも平倉の批評と格闘し、また最終章では、本書の着想源でもあるという現代日本の三人の批評家、平倉と東浩紀と千葉雅也をも批判的に検討することで、継承しようとしている。こうした点が、本書を単なるドゥルーズ論以上のものにしている。

 とはいえここでは、言語や人称といった多様な主題にわたる本書の議論から共通する構えを取り出し、先の問いと「非美学」という表題の関係を明らかにしておこう。問いの前提からもわかるように、本書が照射するドゥルーズの探究は徹底的に哲学の実践についてのものである。たとえばドゥルーズにとって、映画理論は映画に概念を適用することではなく、映画が喚起する概念について論じることである。哲学は芸術を包摂することなく、芸術に受動的に触発されたうえで哲学に閉じた実践である。ここにはまず、哲学に超越的位置を与える美学に対する反発がある。しかしそれだけでなく、直接関係を結ぶことができない感性と悟性は構想力の図式作用によって媒介される、とするカント美学への異議申し立てがある。以上の超越性および図式論的な媒介への抵抗は本書の議論に通底している。著者が『哲学とは何か』のドゥルーズの言葉に読み取る「不純であるための自律性の探求」とは著者自身の探求でもあろう。(河出書房新社、2970円)

読売新聞
2024年9月27日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

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