『しっぽ学』
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『しっぽ学』東島沙弥佳著
[レビュアー] 遠藤秀紀(解剖学者・東京大教授)
学際研究と称するのだが、たくさんの学問分野が集まって議論しているうちに、新たな知の世界が開けてくることがある。そんな「しっぽ学」の始まりを伝えるかわいい読み物として、本書を受け止めた私だ。
〇〇学という新しい呼び名を聞くのが、無性に嬉(うれ)しい。もちろん、それが定着して残るか、いつの間にか消えてしまうか、最初は分からない。でも、存続しようが消滅しようが、新しいことをやってみようという発意が、人間臭くて楽しいではないか。
さあ、書き手はしっぽをどう料理する気か。
解剖学は、しっぽを背骨と筋肉の続きと見る。発生学は、胚子を観察することで、しっぽを定義しようと試みる。一方で、『日本書紀』に登場するしっぽのある人、古い絵巻物に描かれた奇妙なしっぽの生き物、それらは一体何なのか。現実のしっぽも異界のしっぽも、しっぽ学は隔てなく読み解こうと躍り出す。
これほど豊かな知の遊びがあろうか。ここはちょっと浮世を離れて、しっぽ学に熱中してしまう。そんなあなたは、既に著者の罠(わな)にはまっているのだ。(光文社新書、946円)