『ばらまき 選挙と裏金』
- 著者
- 中国新聞「決別金権政治」取材班 [著]
- 出版社
- 集英社
- ジャンル
- 文学/日本文学、評論、随筆、その他
- ISBN
- 9784087446852
- 発売日
- 2024/08/21
- 価格
- 1,100円(税込)
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<書評>『ばらまき 選挙と裏金 』中国新聞「決別 金権政治」取材班 著
[レビュアー] 青木理(ジャーナリスト)
◆病巣の核心に迫る地方紙
<他社に特ダネを書かれることはままある。だとしても、それにへこまず「抜かれたら抜き返せ」が鉄則だ>
随分と古臭い根性論だが、気持ちは分かる。何しろ眼前のネタは地元・広島を舞台とする大型事件。<地元紙の意地を見せてやろう>。本書がそう記す通り、元法相夫妻が大規模な選挙買収に手を染めた前代未聞の事件を巡る報道は、週刊文春がその嚆矢(こうし)を放った。
メディアの形態に貴賤(きせん)などない。ただ、かつてなら新聞が担ったであろうお株を「文春砲」に奪われ、そんな風景が当然視される昨今、中国新聞は違った。直ちに買収事件の本筋をスッパ抜き返す。
それだけなら、地元紙の意地を見せた武勇伝に過ぎないが、その後も中国新聞は違った。この国の「金権政治」の病巣はどこにあり、それと「決別」するにはどうすべきか。<根っこを断つ必要がある>。記者たちはさらに奔走し、集票目的で地方議員らにカネをばらまく与党政治の構造悪を解き明かし、政権中枢が絡む「金権政治」の核心に迫っていく。
出色は、政権と与党から元法相夫妻に渡ったと疑われる巨額資金の出所を追い、闇の一端を明るみに出した特ダネ群である。与党の「裏金」たる政策活動費と、政権の「裏金」たる官房機密費、それが「ばらまき」の原資だったのではないか-。
中国新聞のこうした報道に、人びとは感心しつつも首をひねったろう。なぜ広島の地方紙が政権中枢の闇に迫る特ダネを連発できたのか、と。
答えも本書で明かされ、とっぴな取材の結果ではない。関係者を地道に訪ね歩き、丹念な取材を重ねること。いわばこれも「古臭い」──逆に言えば、志と熱意ある記者たちが今も昔も変わらない取材の基本を尽くし、特ダネは放たれたのだ。
つまり本書は、元法相夫妻の選挙買収事件を起点にこの国の「金権政治」の本質を描き出す秀逸なルポルタージュであると同時に、それがどうして可能となったかを教えてくれる貴重な記者ドキュメントでもある。
(集英社文庫・1100円)
単行本『ばらまき 河井夫妻大規模買収事件全記録』に大幅加筆。
◆もう1冊
『内閣官房長官の裏金』上脇博之著(日本機関紙出版センター)