<書評>『カルトと対決する国 なぜ、フランスで統一教会対策ができたのか、できるのか』広岡裕児 著

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カルトと対決する国

『カルトと対決する国』

著者
広岡 裕児 [著]
出版社
同時代社
ジャンル
社会科学/社会
ISBN
9784886839725
発売日
2024/08/08
価格
1,870円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

<書評>『カルトと対決する国 なぜ、フランスで統一教会対策ができたのか、できるのか』広岡裕児 著

[レビュアー] 斎藤貴男(ジャーナリスト)

◆腐れ縁絶てない日本との差

 「ああいう団体は『迫害されている』と言います。しかし、盗まなければ、詐欺しなければ、何の罪も犯さなければ、誰も問題にしません。けっして信者が文鮮明を崇拝しているから取り締まるのではありません」

 クレール・シャンポリオン氏の指摘は重要だ。言語学の教授だった1974年、息子を統一教会に奪われて、夫らと「家族と個人を守る会」を結成した女性。フランス市民社会と「セクト(破壊的カルト)」の闘いの、これが嚆矢(こうし)になった。

 以来、フランスは国を挙げてこの問題と対峙(たいじ)してきた。「反セクト法」の制定は2001年、「セクト的逸脱対策国家戦略」は昨年23年である。

 世界の先頭を走り続ける過程を、在仏のベテランジャーナリストが詳(つまび)らかにした。元首相の射殺事件まで起きた日本が学ばぬ手はあり得ない。

 私たちは誤解しがちだと、著者は言う。フランスは「宗教」を敵視していないし、特定の団体の解散を目指しているわけでもない──。フランス語の「カルト」は「宗教全般」を指す単語だ。日本の用法と同じ意味を持つのは「セクト」だが、これがまた(1)既成宗教の主流派と異なる「新宗教」、(2)人や社会に有害で、人権を侵害する集団、の2通りがあってややこしい。(1)を採ると「信教の自由」と真っ向から対立してしまう。

 激論の末、1995年の国民議会調査委「ギュイヤール報告」で、現在に至る方向性が確立された。この点が(1)的な発想から抜け出せない米国や、そもそも政治に「カルト」との腐れ縁を絶つ気がない日本との決定的な差か。

 興味深い記述を引いておく。セクトとは「未来の実験室」だ、彼らは市場を神聖視して、ニーチェやナチスの言う“超人”ならぬ、機能性やテクノロジーに矮小(わいしょう)化された“新人類”を求めている。新自由主義も包含する「ウルトラ自由主義」という“新しい全体主義”を温床に、だ。

 だとしたら余計に恐ろしい。総裁選で統一教会との関係が争点にもされなかった状況を検証し直す必要がある。

(同時代社・1870円)

1954年生まれ。在仏ジャーナリスト。著書『皇族』『EU騒乱』など。

◆もう1冊

『政治と宗教 統一教会問題と危機に直面する公共空間』島薗進編(岩波新書)

中日新聞 東京新聞
2024年10月6日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

中日新聞 東京新聞

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