理系大学生が霊媒師のバイトをした話 『横浜駅SF』の作者・柞刈湯葉による不思議な青春SF小説の読みどころとは?
レビュー
『幽霊を信じない理系大学生、霊媒師のバイトをする』
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[本の森 SF・ファンタジー]柞刈湯葉『幽霊を信じない理系大学生、霊媒師のバイトをする』
[レビュアー] 北村浩子(フリーアナウンサー・ライター)
年の差、約80歳。柞刈湯葉『幽霊を信じない理系大学生、霊媒師のバイトをする』(新潮文庫nex)は、ユニークなバディものだ。理工学部で学ぶ18歳の谷原豊と100歳の鵜沼ハル。二人を引き合わせたのは豊の曾祖母・千代子の死だった。
「千代子ちゃんが亡くなったって聞いてね、久しぶりに会いに来たの」「千代子ちゃんとはね、女学校の同級生だったのよ」
そう言うハルはどう見ても40歳前後。しかも彼女は霊媒師だと述べ、千代子の霊と話せるのだと豪語する。ありえない。どう考えても科学的ではない。しかし豊は嘘だと決めつけず、とりあえず保留にする。彼は苦い経験から知っていたのだ。他人に見えているものが自分には見えていないことだってある、と。
ハルに誘われ、豊は彼女の仕事を手伝い始める。パソコンなどの「今時」の知識が霊を慰めるのに役立つのだとハルは言う。大事なのは、たとえ信じていなくとも、霊のいる場所ではそこに霊がいるかのように振る舞うこと。「だって、いくら姿が見えないからって、自分がいないもののように扱われたら、嫌でしょう?」
台風による洪水で家ごと流されてしまった人たちや、流行病で死んでしまった女性。何十年も前にこの世を去った人々を呼び出し話をするハルは、豊には一人芝居をしているようにしか見えなかった。ちょっとした助言をし小道具を用意するだけで、豊には高額のバイト代が支払われる。いったい、この報酬の出所はどこなのだろう? ハルに仕事を依頼する誰かがいて、その人物はハルが本当に幽霊と話せると信じており、かつ彼女が幽霊から引き出す情報を必要としているからに違いないと豊は思う。「その人物」は誰なのか、そしてハルは何者なのか。
豊は家でも外でも本を読む。講義のノートをきちんと取り、同級生に頼まれれば惜しげもなく見せる。自他共に認める真面目できちんとした人間だ。けれど心の中にずっとわだかまっている言葉がある。友人の西田に言われた「お前って、人の気持ちがわかんねえやつだよな」という言葉。子供の頃から親しかった西田との関係が途切れたのは、その一言が原因だった。
しかしハルの仕事の「目的」と、かつて西田と二人で熱中したある遊びが思いがけず豊の中で交錯する。ハルがたぐり寄せる過去と、豊自身の過去が線を結ぶのだ。
線が延びてゆく先に豊たちが住む町の歴史が姿を見せ、意外な人物の名前が浮かび上がってくる。西田との再会も実現する。実はハルの正体は物語の中盤、彼女の娘・サクラの登場で明らかになるのだが、その事実を知った豊が笑いながら涙を流す場面が印象的だ。最後まで豊は(タイトル通り)幽霊を信じない。けれど、いや、だからこそ、作品を貫く「死者のことを考えられるのは生者だけ」という言葉が、読者の中で潤い、輝く。