『口訳 古事記』
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シン・奇天烈日本神話
[レビュアー] ピストジャム(芸人)
「古事記とは?」と問われ、すらすら説明できる日本人はそんなに多くないかもしれない。
古事記は、712年に太安万侶が元明天皇に献上した、現存最古の歴史書だ。天地の始まりや神の誕生、神の子孫が天孫として地上に降臨し、この国を治めていくさまが描かれていて、日本神話を知ることができるのだが、古くて難しそうと敬遠されがちでもあろう。
ところが、芥川賞作家の町田康による『口訳 古事記』は、この神話を関西弁の口語で訳する類のない作品だ。ときに破天荒な町田康の作風は、芸人のファンも多く、“慶應卒バイト芸人”のピストジャムも愛読しているという。
『口訳 古事記』を「一家に一冊持っとくべき」とピストジャムが断言する理由とは? 以下に、又吉が編集長を務める文芸誌「第一芸人文芸部」創刊準備号から抜粋して紹介する。
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めちゃくちゃ人間くさい話がいっぱいある
その昔、日本には文字が存在してなかったという。古事記は1300年前に誕生した日本最古の書物で、稗田阿礼(ひえだのあれ)という人物が記憶した神々による日本創生の歴史を、太安万侶(おおのやすまろ)が口伝えで聞いて漢文で記述したと言われてる。そして、それを口訳したのが、この作品。これは口訳というのがミソで、全編ごりごりの関西弁、の中でも結構きつい河内弁で書かれてる。
神々は作中で、「じゃかましいんじゃ、ぼけっ」とか「なに眠たいこと吐かしとんね」とか「ざまあみさらせ、アホンダラがっ」とか「玉取ってきたれや」とかおっしゃる。ほかにも「フルアーマーの状態で」とか「ルッキズムやんけ」とか「ホームセンターみたいなとこ」とか現代の表現が出て来たり、「君たちがいて僕がいる」と吉本新喜劇の師匠のギャグまでおっしゃったりする。
もう読んでて、笑い転げた。本読んでて吹き出すってなかなかない。日本の歴史も知れるし、神々に親近感もわいてくるし、神社に行くのも楽しくなるし、ほんまにこれ一石何鳥やねん。この本は、絶対一家に一冊持っとくべき。
天照大御神(あまてらすおおみかみ)の岩戸かくれとか須佐之男命(すさのおのみこと)の八岐大蛇(やまたのおろち)退治とか因幡(いなば)の白うさぎとか、有名な話も全部載ってる。そもそも、その神話自体が驚天動地のおもしろさやからまったく飽きひんし、めちゃくちゃ人間くさい話がいっぱいある。