『パーフェクトな意思決定』
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【毎日書評】即決だけじゃない。ビジネスの意思決定の質とスピードをあげる「3つの箱」の選択肢
[レビュアー] 印南敦史(作家、書評家)
「意思決定」は、「固い意思を持つこと」のように思われがち。しかし『パーフェクトな意思決定──「決める瞬間」の思考法』(安藤広大 著、ダイヤモンド社)の著者は、むしろ逆だと断言しています。
意思決定は「水のように固いもの」ではなく、「水」に近いイメージだそう。水は「固い氷」にもなり、「柔らかい水」に戻ることもできるしなやかな存在。そんな水のようなスタンスこそが、意思決定の本来の姿だというのです。なお、著者は本書の冒頭で“「意思決定」のスキルを使い、確実に成果を出し続ける人の特徴”を紹介しています。
“自分の責任に応じて、意思決定ができること。
決めたことに対して100%実行すること。
つねにいい結果を出そうとするのはもちろん、もしいい結果が出ないときは、最初の意思決定を疑い、次なる意思決定ができること。”
(「はじめに」より)
これが本書の目指すゴールであり、こうなれる人は一生、活躍し続けられるということ。加えて注目すべきは、著者が上記の「固い氷」と「柔らかい水」の両方を併せ持つ“しなやかな決定”を、「パーフェクトな意思決定」と定義づけている点です。
「意思決定」という言葉のイメージが硬いからか、つい、会社や人生の運命を左右する、大きな決断をイメージするかもしれません。
しかし、そんな一発逆転の場面は、そう滅多には起こらない。
リアルな現場では、日々、「ちょっとした選択」があるだけです。
それが少しずつ積み重なって、大きなことを成し遂げられるのです。
(「はじめに」より)
きょうは本書の第1章「『正しい意思決定』という間違い」のなかから、「意思決定の『3つの箱』」に焦点を当ててみたいと思います。自分が判断しなければならないときには、「1 即決」「2 情報不足」「3 期限を設定する」という3つの箱に振り分けることが有効だというのです。
1.「即決」という箱に入れるとき
すでに充分な情報、すなわち選択肢が明確にあるようなときには、その場で決めることが大切。そのことを著者は、「社用車を利用する時にクレームがあった」ケースを用いて説明しています。
◾️「車を使いたいときに使うことができない。事前に紙に記入しているのに、勝手に使われてしまっている。(134ページより)
紙で管理するなら、実際にそこへ行って直接書く必要があります。そこで、このケースではスプレッドシートで管理し、PCやスマホでどこからでも記入できるようにしようと思い立ったようです。
いずれにしても、明らかに問題が発生していて、その解決法があるのですから、この程度のことであれば意思決定はすぐに行うべき。ところが、こういったレベルの問題についても「全員の理解を得なければいけない」と思い込んでしまい、全員にヒアリングするような人がいるものです。
しかしそれでは、「これまで紙でやってきたから、そのままでいい」「スプレッドシートの使い方がわからない」などの意見に左右されてしまうことになります。だからこそ情報が揃っている場合は、意思を持って「変更します」と決定するべき。そして、全員が実行できるように周知するのです。(134ページより)
2.「情報不足」という箱に入れるとき
上記の「紙をスプレッドシートに」よりも、意思決定の難易度が高めの問題に取り組む際には、必要な情報を特定し、部下にあげさせるといいそうです。
たとえば、社内でオンラインサロンを立ち上げるかどうかを意思決定するとしましょう。
そのような新規プロジェクトは、未経験のメンバーで構成されることがほとんどです。
そこでやることは、
「他者のオンラインサロンの調査レポートを出させる」
などによって、判断材料を集めることです。
メンバーにタスクを与え、期限を決めて、プレゼンをさせます。
その情報を受けて、「やるかどうか」を決めるのです。もしやる場合も、どういうコンセプトで運営するのかの判断がしやすくなりますね。(136〜137ページより)
ポイントは、責任のある人がひとりで情報をとるのではなく、チームで取り組むこと。そうすることで、意思決定のスピードが上がるわけです。(136ページより)
3.「期限を設定する」という箱に入れるとき
3つ目は、決めるための情報として「時間」が必要な場合。上記の「メンバーに期限を設ける」ことよりも、さらに長いスパンで判断したときです。ある程度、ビジネスを実行してみて、「もう少し経過が見たい」というケース。
先ほどのオンラインサロンを、そのまま続けていくかどうか。
あるいは、無料から有料に切り替えるかそうか。
そういう意思決定のためには、ある程度の「時間軸」が必要です。
◾️「年間目標を1万人に設定して、最初の1ヶ月でどの程度増えるか」
◾️「テスト版として有料コンテンツを出すことで、1週間で何人が購入するのか」
など、期限を決めて検討する材料を集めます。
(138ページより)
なんとなく始めて、なんとなく決めるのではなく、「1週間後に決める」「1ヶ月後に決める」など、期限を最初に設定することが大切だというわけです。
なお、ベストは「1」だといいますが、必ずしも「即断即決がいい」ということではないようです。検討したいときにすべきは、「2」や「3」の箱に入れることが重要。「2」に入れれば、部下やメンバーは次に何をすべきなのかがわかり、行動できるようになります。「3」に入れた場合は、期限が示され、それ以外の業務に集中できるわけです。(137ページより)
著者は本書において、ビジネスや会社にはびこる誤解や錯覚を取り除きながら、「意思決定」の重要性を説いています。ビジネス・マインドをより強固なものにするために、参考にしてみてはいかがでしょうか。
Source: ダイヤモンド社