「どちらかが死んだ時に」鈴木おさむが面倒くさかったけど、妻・大島美幸と共有した大切なものとは

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マイブック

『マイブック』

著者
大貫 卓也 [企画・原案]
出版社
新潮社
ジャンル
総記/総記
ISBN
9784101208770
発売日
2024/09/30
価格
473円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

誰かを強烈に思う3分間

[文] 鈴木おさむ(実業家/元放送作家)


鈴木おさむさん

 お笑い芸人トリオ「森三中」の大島美幸さんと結婚し、今年で23年目となる鈴木おさむさんが、夫婦の成長過程に間違いなくプラスだったことがあると言います。

 それが結婚3年目に大島さんから提案された交換日記でした。

 喧嘩した日も誕生日もクリスマスもやり取りされた日記は、2日に1回とはいえ、疲れている日は書くのがきつかったが、「夫婦にとって大切なこと」が凝縮されていると明かしてくれました。

※本稿は累計280万部を突破した『マイブック』(新潮社)を夫婦の交換日記として使う鈴木さんにインタビューした記事です

鈴木おさむ・インタビュー「誰かを強烈に思う3分間」

――『マイブック』を交換日記として使うきっかけは何だったのでしょうか。

 妻(森三中・大島美幸さん)が知り合いから『マイブック』のことを教えてもらったらしくて、交換日記をやってみようよ、と。2004年だったので、僕が32歳のときですね。結婚3年目でした。

――そのお誘いにどう思われましたか?

 面白いなと思いましたね。20代の頃の僕は仕事ばっかりしていて、礼儀も知らなければ、他人の気持ちを思いやることもわからない人間だったんです。妻に「それはダメだよ」とか「そういうときはこうするんだよ」と教えてもらったことがたくさんあります。彼女が夫婦間のルールのようなものもいろいろ提案してくれて、例えば「むー」「みー」と呼び合おうとか。マイブックもそういった提案の一つでした。

――ご夫婦でどんな内容を書かれるんですか?

 冒頭の2行くらいは前日に相手が書いたことに対して「よかったね」とか「大変だったね」とかリアクションがあって、そのあとは当日のことを書くことが多いです。特別なことではなくて、とにかく日々の報告です。夫婦って意外とその日の出来事を話さないですよね。仕事のことは特に。うちは同じ業界で仕事をしているのでわかる部分も多いのですが、世の中のご夫婦はパートナーが日々どんな仕事をしているのか知らない方が多いんじゃないかな。

――たしかに、職種や肩書きは知っていても、具体的に何をしているか聞かれても答えられないかも……。

 実はお互いのことにあんまり興味ないんですよ(笑)。わざわざ話したり、聞いたりするのも疲れますよね。「ねえねえ聞いてよ」とか持ちかけるのも負担になるかなと思いますし、料理中だったり、テレビを見てたりして、タイミングが合わないことも多い。でもマイブックに書いてあれば、そこから会話が生まれるんですよね。

――毎日決まった場所に置いておくんですか?

 僕の机の上とか、だいたい決まっていますが、時間はバラバラですし、そんなに厳密にはしてないですね。

――喧嘩をした日などはそれについて書かれるのでしょうか。

 フォローだったり、謝罪だったりを書きますね。誕生日なら「おめでとう」と書きますし。そういういつもと違う日もいいんですけど、やっぱり普段の日常を記録するのがマイブックの醍醐味だと思います。喧嘩した日も誕生日もクリスマスも、1年365日の「ワン・オブ・ゼム」になる。それがむしろいいな、と。

――マイブックを使っていただいていて、別のものに変えようと思われたことは……?

「あります」って言っていいんですかね?(笑)マイブックは「本」の形になっているのがいいですよね。1年間続けたら、世界に一冊の、自分だけの本ができる。本棚に芥川の本と一緒に並べても自然に見える。他のノートや日記帳にはないオフィシャル感がありますよね。何年も続けたらその本が池波正太郎さんの『剣客商売』みたいに増えていくわけです。

――逆にマイブックの欠点があれば。

 マイブック特有の欠点ではないですが、毎日――僕の場合は交換日記なので2日に1回ですが、書き続けるのは本当に大変。仕事が忙しくて夜中に帰ってきて、そこから書くというのはすごくハードですよね。たとえ3分でも5分でも、やっぱりきついですよ。

――それでも頑張って書くのはどうしてなのでしょう。

 それが相手のことを強烈に思う3分間になるからですね。新婚当初ならまだしも、結婚して何年も経つと、相手のことをしっかり意識する瞬間ってどんどん少なくなっていくと思うんです。やがて空気みたいに、いてもいなくても変わらない存在になっていく。マイブックという存在があることで、相手にこれを報告しようというきっかけになる。そういう装置ってすごく大事だなと思います。

――マイブックを始めた当初からそういうふうに思ってらしたんですか?

 いやいや、妻に提案されてなんとなく続けているうちに感じたことですね。毎日LINEしようね、って言っていてもつい忘れちゃいますよね。マイブックは物として存在しているから、強制力になる。もしかしたら「楽しんで書かなきゃいけない」と思っている方がいるかもしれませんが、僕はそれって嘘くさいと思うんですよ。

――と言うと……?

 奥さんから「二人でマイブックを書こうよ」と言われたら、大抵の旦那さんは「面倒くさい」って嫌がりますよ。でもそこで「だからやらない」ではなくて、「無理してでもやる」前提で始めてみてほしいんです。無理をしてでも、この一冊を埋めてみようよ、と。まずは一年間とゴールを決めてあげるのがいいと思います。それが出来たら、二人にとって大切な一冊が完成するんです。じゃあ二冊目やってみようかと。そうやって溜まっていくとかけがえのない宝物になります。

――時々読み返したりもされますか?

 まだしないです。おそらくどちらかが死んだ時に、もう一方が読み返すんじゃないでしょうか。1日1ページずつ読んでいくのとかいいですよね。あとは子どもがもし興味を持ったら、渡すかもしれないですね。

――お子さんに見せたことはない?

 ないですね。たぶんまだ興味がなくて「お母さんとお父さんの交換日記だよ」と言っても「へえ」で終わると思います(笑)。こちらから押し付けるのではなくて、子どもが自発的に関心をもったら、というのが大事だと思うので。

――鈴木さんにとって『マイブック』はどんな存在ですか。

 ちっちゃい糊みたいなもの。夫婦をくっつけてくれる糊。糊はひとつじゃなくて、子どもだったり、旅行だったり、いろいろあるんですけど、そのうちのひとつですね。

――これからマイブックを始めるという方に向けて何かメッセージをお願いします。

 新婚夫婦とか、結婚10年目くらいまでのご夫婦にすごくお勧めします。ルール化して、とにかくやってみてほしい。ルールはお互いを縛るものじゃなくて、相手を積極的に思うための仕組みなので。

――結婚10年目以上はダメでしょうか……?

 うちは結婚23年目ですし、大丈夫です(笑)。少なくとも僕ら夫婦にとって、マイブックは夫婦の成長過程に間違いなくプラスだったと思っています。

新潮社 波
2024年10月号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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