『医学問答 西洋と東洋から考えるからだと病気と健康のこと』仲野徹/若林理砂著
[レビュアー] 岡本隆司(歴史学者・早稲田大教授)
病や体 東西非対称の見方
還暦も近くなると、何かしら体に不具合はある。日常に支障のないかぎり、医学まで考える必要はないものの、薬か病院か、はたまた放置か、悩ましい。
あれこれ思い悩む前に、まずはこの本で心構えを。「一般の人にもある程度の医学リテラシーは絶対に必要」とみる著者たちが、ウンチクを傾けて語り合った「問答」だ。おもしろくてためになる。体(フィジカル)にも頭(メンタル)にもいい。
何より特徴は「西洋と東洋」にある。病気は治ればよいので、東西どちらでもいいはずながら、現実はそうならない。ふつうは西洋医学にかかって、不可なら東洋医学も、というコース。評者もくりかえし実践した。
かつて膝を痛めて、何をしても治らなかったのが、鍼灸(しんきゅう)で救われた。でも宿(しゅく)痾(あ)の腰痛は、西洋医学も中国医学も治してくれない。経験した「吸い玉」療法も、「効かんです」。専門家の断言をはじめてみて、思わず安(あん)堵(ど)してしまった。
けっきょく医学そのものを知らないとはじまらない。体をどうみて病をどうとらえ、薬をどう作って何をめざすのか。
東西まったく非対称なのである。本書は西の仲野先生が問うて、東の若林先生が答える「問答」にほかならない。「うん、わからんな!」「はい! すんません!」というやりとり、「どうしてそれがわからないのかはよく理解できました」という結論である。
西の「医学」は「理解でき」ても東は「わからん」。腑(ふ)に落ちて納得した。本書の「医学」を「歴史学」に代えても、まったく同じ意味で通じるし、現代の世界情勢とも平仄(ひょうそく)が合うからである。
医学ならこのサブタイトルでよい。ヒトの歴史からみれば、さらに「からだと病気と健康から考える西洋と東洋のこと」とも読める。同じヒトで個体差があるように、医学もヒトの社会も、東西やはり同じではない。
なぜどうちがうのか。腰痛を抱える歴史家も「理解でき」ない。しかし「わからなくってもええやん」。読了後、少し気が楽になった。(左右社、1980円)