『水と清潔』
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『水と清潔 風呂・トイレ・水道の比較文化史』福田眞人著
[レビュアー] 東畑開人(臨床心理士)
人間が生きていくうえで絶対的に不可欠なものとは何か。金だろうか、愛だろうか。人間が人間らしく生きるためには何があればいいのか。名誉だろうか、友だろうか。いずれも違う。水だ。本書は教えてくれる。水こそが生存の基盤であり、人間性の源である。
一日の流れを思い出してほしい。あなたの生活は水まみれのはずだ。水を飲み、水を排出する。人間はジョウロのように、水を出し入れし続けないと死んでしまう。同時に、私たちは水を沸かして料理をし、汚れたものを水で流す。水がなくなれば人間的な暮らしができなくなるだろう。
そういうことを人類は遥(はる)か昔から延々とやってきた。そのために水を貯(た)める施設を作り、水を運ぶ技術を開発した。そして、水に神々の力を見(み)出(いだ)した。本書はインドの聖なる川に始まり、森鴎外の風呂に至る旅路の中で、人間と水との関わりのすべてを描こうとしている。
この本を読むと、蛇口をひねるだけで水が出る生活が、どれだけ変態的で、偉大であるのかがわかる。そして、これからの人類が心配になる。(朝日選書、1870円)