『憲法学と憲法学者の〈アフター・リベラル〉』
- 著者
- 山元 一 [編集]/吉田 徹 [編集]/曽我部 真裕 [編集]/栗島 智明 [編集]
- 出版社
- 弘文堂
- ジャンル
- 社会科学/法律
- ISBN
- 9784335359705
- 発売日
- 2024/07/10
- 価格
- 4,180円(税込)
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『憲法学と憲法学者の〈アフター・リベラル〉 戦後憲法学の「これまで」と「これから」を語る』山元一/吉田徹/曽我部真裕/栗島智明編
[レビュアー] 橋本五郎(読売新聞特別編集委員)
「抵抗の憲法学」を超えて
長い間、東大を中心とした戦後憲法学に違和感があった。「日本の戦後憲法学は、圧倒的に『抵抗の憲法学』として成立し展開してきた」。宮沢俊義、芦部信喜の流れを汲(く)む東大正統派の嫡流とも言うべき高橋和之の指摘である。しかし憲法の存在理由は権力を縛ることにあるのか。権力は常に国民の敵なのか。さらには大半の国民が自衛隊を容認する中で、違憲論を唱え続ける学者は国民意識との乖(かい)離(り)を埋める理論的努力をしてきたのか。
本書は、政治学や法哲学、歴史社会学者、ジャーナリストも参加して戦後憲法学の功罪を明らかにし、新たな憲法学のあり方を提示しようとした待望の書である。3年前に出版された姉妹書である鈴木敦・出口雄一編『「戦後憲法学」の群像』(弘文堂)と併せ読めば、戦後日本の主流憲法学に顕著な「罪」もくっきりと浮かび上がってくる。
その第一は、憲法学者は現実と乖離しても構わない、むしろ非現実的であることが権力を抑制することになるのだという高踏的な態度に問題はなかったのか。安保政策について、憲法学者に求められているのは政策が合憲か違憲かの判断なのに、憲法9条から見たらこうなると、安保専門家が語るべき政策内容まで憲法学者は簒奪(さんだつ)しなかったか。
そう考えると新たな憲法学の姿が見えてくる。「抵抗の憲法学」を超え、強い民主主義をつくるために何が必要か。それは権力に参画することを通じて権力を抑制的なものとし、「より良き権力」を作り上げることに力点を移していくべきなのではないのか。哲学者ハンナ・アレントやアントニオ・ネグリらが提唱する「構成的権力」の概念である。
この書は決して戦後憲法学を否定し、破壊しようとしているのではない。現憲法の精神を十分評価し、平和主義を求める戦後憲法学の担い手の一(いち)途(ず)なまでの学者としての良心に敬意を払いながら、戦後憲法学を超えようとしている。学問と現実政治との関係だけでなく、そもそも学問はいかにあるべきかについても深く考えさせられる熟読すべき書である。(弘文堂、4180円)