『消費者と日本経済の歴史』
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『消費者と日本経済の歴史 高度成長から社会運動、推し活ブームまで』満薗勇著
[レビュアー] 佐藤義雄(住友生命保険特別顧問)
「お客様」意識 変化と行動
「お客様は神様です」という言葉は歌手の三波春夫氏が1961年頃にステージで発した言葉が始まりだとされるが、演者の心構えを述べたこの言葉が曲解され、一部の客がわがままな態度をとることを助長したという。
本書はこのようなエピソードを交え、戦後から現在に至るまで、消費者の「権利」「責任」に関する社会の考えがどのように変わっていき、企業など生産者やサービス提供者がどのように考え行動したかということを語る力作だ。
著者は戦後から今日に至るまでの「消費者」をめぐる動きを四つの期に分け、その変遷をたどる。
まず60年代から70年代初頭の高度成長期。電化製品等の普及で「消費革命」が起き、消費者の存在がクローズアップされた時期である。経済同友会など企業の側からも「消費者主権」が唱えられた。
次は70年代初めのオイルショックにより高度成長期が終わり、生活の質への関心が高まった時代。この時期には公害や資源の限界性に関心が集まり、「消費者の責任」も問われた。セゾングループや有機農業などの動きが注目を集めた時期である。そして80年代から2000年代にかけては「お客様」の時代が到来する。規制緩和などにより価格、サービスでお客様満足を競う時期だ。コンビニが急速に拡大したのもこの時期である。その反面、過度な競争は過重労働などの社会問題を生み出した。
10年代以降の動きはどうだろうか。カスタマーハラスメント問題の発生もあり、行き過ぎた顧客満足度追求を見直す企業も増えている。一方では「推し活」などの「応援消費」やエシカル(倫理)消費など消費行動の新しい潮流が生まれた。「推し活」は危うさもはらむと指摘されるが消費者の意識や行動の変化が注目される。
本書は今後我々が消費者としてどうふるまうべきかを考える上でもよすがとなる一冊。(中公新書、968円)