『「言ってしまった」「やってしまった」をリカバリーするコツ』
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【毎日書評】あのコミュニケーション失敗したな…のあとに「リカバリーできる人のテクニック」
[レビュアー] 印南敦史(作家、書評家)
コミュニケーションで失敗したくないからと、つい消極的になってしまうという方もいらっしゃるかもしれません。しかし『「言ってしまった」「やってしまった」をリカバリーするコツ』(山本衣奈子著、日本実業出版社)の著者は、そもそも「一度も失敗したことがない」「やらかしてしまったことがない」という人はいないと指摘しています。
コミュニケーション力が高く、人づきあいがうまいと感じさせる人であっても、人との接し方についての失敗経験を持っていたり、悩みを抱えていたりするということです。
コミュニケーション力が高い人というのは、“決して失敗しない人”のことを言うのではありません。相手とのつながりを諦めず、失敗を失敗で終わらせないという“失敗からのリカバリー(回復)ができる人”のことを言うのです。(「はじめに」より)
むしろ、多くの失敗を経験している人のほうが、人にやさしく、肩の力を抜いて相手とのやりとりを楽しんでいるもの。失敗の数だけリカバリーを経験しているため、「失敗してもリカバリーできる」ということを知っているのでしょう。
そこで本書では、“コミュニケーションや人間関係のあり方をよりよいものにしていくための、リカバリーのコツ”を紹介しているのです。
ちなみに著者は、添乗員、接客、受付、営業、秘書、クレーム応対など豊富な経験を持つ人物。それらによって培った聴力、VIP対応で体得したマナーなどを駆使し、「伝わる」コミュニケーション方法を確立し、プレゼンテーションプランナー/伝わる表現アドバイザー/産業カウンセラーとして活動されているそうです。
そうしたバックグラウンドに基づいて書かれた本書の第2章「コミュニケーションのポイント&リカバリーするコツ」のなかから、2つのトピックスを抜き出してみましょう。
エレベーターで2人きり
エレベーターに乗った時には大混雑だったのに、だんだん人が減っていき、同じフロアの人と2人きりになりました。
あまり話したことがない人だけれど、相手もこちらの存在には気づいている様子。(声をかけた方が良いのかな)と躊躇しているうちになんとなくタイミングを逃してしまい、無言が続いて、微妙な雰囲気……。
あなたなら、どうしますか?(30ページより)
顔見知り程度の人に話しかけるのは、なにかと不安。相手がこちらのことをどのくらい知ってくれているのかもわからないのですから、「話しかけて、変な人だと思われたらどうしよう」などと戸惑ってしまったとしても無理のない話です。
そんなとき、落ち込んだり、自分を責めたりする前に覚えてほしいのが「最後の印象がいちばん大事」ということだそう。
心理学の用語に「ピークエンドの法則」というものがあります。これは「ある出来事に対し、人の記憶や印象に最も強く残るのは、感情が最も高まった時(ピーク)と、最後(エンド)の部分である」という法則で、心理学者および行動経済学者のダニエル・カーネマンによって提唱されました。(30ページより)
大混雑のテーマパークで、アトラクションに乗るために何時間も行列に並ぶとしたら大きなストレスになることでしょう。しかし、自分の番になり、アトラクションに乗ってテンションが上がったとしたら? 以後は行列のつらさより、上がったテンションや爽快感のほうが強く印象に残るはず。
つまり人の印象や記憶は、出来事のすべてに通じているわけではないということ。したがってエレベーター内で気まずい時間が流れたとしても、最後の印象を強くするだけで、すべてをリカバリーすることも可能なのです。
「“会話”をしなければ」と思うほど、なにを話したらいいのか、なにを聞いたらいいのかと考えすぎてしまうもの。しかし「会話」がなかったとしても、「去り際のひとこと」があればOK。
たとえば相手が先に降りるなら、「開」のボタンを押しながら「どうぞ」と微笑みかける。自分が先に降りるなら、「お先に失礼します」とひとこと伝えて会釈する。それだけでも、相手に伝わる印象は変わるのです。
話しかけるのが怖くなったり躊躇してしまうのは、相手からの反応や返事を意識しすぎるから。しかし、たったひとことでも、ことばをそこに“置いてくる”感覚で口にしてみれば、後悔することも減っていくわけです。(30ページより)
挨拶のあとが続かない
朝、職場に入って、明るく元気よく「おはようございます!」と挨拶したものの、周囲からはテンションの低い「あ、おはようございます……」といった反応しか返ってこず、自分だけが浮いているようで気まずい……。あなたなら、こんな時どうしますか?(35ページより)
そんなときは「みんなに」と思わずに、「誰かひとりだけに」と考えてみてはどうかと著者は提案しています。全員を相手にするためには相当の気力と体力が必要ですが、たったひとりであれば、ハードルはさほど高くなく、気楽に実行しやすくなるはずだから。
たとえば、「きょうは話しかけやすそうなあの人に声をかけてみよう」と思ったとしたら、次のハードルは「なにを話すか」。とくに親しい相手ではなかったり、会話する機会の少ない相手であれば、急になれなれしくするのも違和感があるなあと、いろいろ考えてしまうかもしれません。
そんな時にあれこれ考え始めると、さらにどうしたら良いかわからなくなってしまうので、まずは「最近〇〇ですね」と“現在のこと”について声をかけてみるのがおすすめです。というのも、自分自身も、そして相手にとっても、人が最も話しやすいのは“現在”のことだからです。(38ページより)
しかも、こちらが感じていることは、相手も同じように感じていたりするものです。そう考えれば気が楽になりますし、仮に相手は違うことを感じていたとしても焦る必要はなし。なぜなら大切なのは、お互いが同じように感じているかどうかではなく、会話をすることだからです。
ほんの一往復だけでも会話が生まれれば、気まずさのようなものを消すことは充分に可能。軽い会話の積み重ねが、そのあとの心の距離感を縮めていくこともあるのです。(35ページより)
本書の根底には、「失敗に尻込みしてコミュニケーションが怖くなってしまっている人が、前向きな一歩を踏み出すためのサポートになれたら」という思いがあるそう。どのページから読むこともできるので、大いに活用したいところです。
Source: 日本実業出版社