SNSごときで安易に泣くな。簡単に「共感しない能力」を身につけよ!の真意とは

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共感バカ

『共感バカ』

著者
池田 清彦 [著]
出版社
祥伝社
ジャンル
社会科学/社会
ISBN
9784396117047
発売日
2024/10/02
価格
1,012円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

【毎日書評】SNSごときで安易に泣くな。簡単に「共感しない能力」を身につけよ!の真意とは

[レビュアー] 印南敦史(作家、書評家)

「隣人を大切にしなさい」

「他人の気持ちを想像しましょう」

「相手が言われて嫌なことは言うべきではない」

(「はじめに」より)

どれもまったくの正論だと、『共感バカ』(池田清彦 著、祥伝社新書)の著者は認めています。自分の目だけで世界を見るのではなく、自分とは違う誰かの目を通して世界を見る。他者の痛みや苦しみに寄り添い、分かち合おうとする。そうした「共感」が重要な意味を持つということです。

しかし、なのに本書にはなぜ、ここまで刺激的なタイトルがついているのでしょうか。どうやらそこには、大きな意味が込められているようです。

「共感」をうまく働かせることによって、私たちホモ・サピエンスは他の生物よりも優位な立場を手にし、食物連鎖の頂点に立ち、歴史を発展させてきた。

共感力はないよりあったほうがいい。

それは間違いない事実だが、だからといって共感=絶対的な善ではない。

むしろ、共感が過剰だったり、逆に不足していたり、あるいは極端に偏った共感に人々が振り回されているせいで、現代社会のあちこちにほころびができているように私には感じられる。

ひと言でまとめると、共感を適切に扱えない「共感バカ」が増えているのだ。

(「はじめに」より)

たしかに共感は大切ですが、バランスを欠いてしまうとさまざまな問題が生じることになるかもしれません。そこで本書において著者は、「共感バカ」の事例を紹介しつつ、共感が人間心理と社会にもたらす影響を明らかにしているわけです。

きょうは第4章「共感病からの脱却」に焦点を当て、いくつかの要点を抜き出してみたいと思います。

共感しない能力を育てる

共感を無条件に受け入れることは、私たちの社会に多大なリスクをもたらすと著者は指摘しています。

なぜなら隣人同士を対立させ、自分と異なる他者を否定し、国家を戦争に突入させることすらあるから。過去に戦争を通じて多大な被害を与えたり、被ってきた経験を持つ日本人は、そろそろ「共感しない感性」を磨いたほうがいいというのです。

今、私たちにとって重要なことは、共感しない能力を意識的に育てることだ。

さらに理想をいえば、共感と理性を場面に応じて適切に使い分けできるようになれたらもっといい。

年齢を重ねるほどに、人は思考と変化が苦手になる。理由は簡単、億劫だからである。思考と感性が硬直化した人間は、揃って自分の正しさに固執し、視野を狭めて閉じていくようになる。

脳にミラーニューロンを持って生まれてきた以上、人間は鏡を見るように他者に自分の感情を映し出す。よって共感しないわけにはいかないが、共感に振り回されない方法もぜひ知っておきたい。(128〜129ページより)

「社会に共感しない力」「孤立を恐れない力」は、社会を救う力になると著者はいいます。そのことを理解しない人が多い社会は、悲惨な末路をたどっていくだろうとも。(128ページより)

TikTokごときで安易に泣くな

著者はここで、「すぐに感動するな」と説いています。もちろん感動すること自体は悪いことではないでしょう。とはいえ、理解しておくべきことがあるということのようです。

感動も一種の共感だ。すぐに感動する人は心が優しいと思われがちだが、たかだか数十秒程度のショート動画を見てすぐに涙するのは、ほぼ反射で目から水が出ているようなものだ。(129ページより)

感動のツボは人によって違うものの、パターンはそれほど多くありません。家族愛、友情、動物との絆、困難を乗り越える瞬間、過去への思いなどの要素を並べていけば、どれかひとつくらいは心の琴線に触れるわけです。

つまりパターンは出揃っているので、制作者側がその気になれば感動は安易に仕掛けられるということ。そうやってアウトプットされたものと、受け手のなかにある感動の回路が噛み合えば、情動的共感はたやすく発動されてしまうのです。

だからこそ、感動するものには気をつけなければならない。

ドラマや映画ですぐに感動して泣いてしまう人は、自分が共感に騙されやすい人間であると自覚しておいたほうがいい。フィクションを見て涙しそうになったときは、「自分は今何に心を動かされたのか?」といったん立ち止まって自問自答してみてほしい。(130ページより)

なんにでも共感する人間は、すぐに流されてしまうものだと著者はいいます。それが、騙されてしまうことにつながるケースもあることでしょう。そこで、目先の情動に引っぱられず、「自分がなにに共感し感動する人間なのか」を知っておく必要があるのです。(129ページより)

中年以降は、共感力が否応なく高まる

「歳をとると涙もろくなる」といわれますが、実際に中年を過ぎると感動のハードルは昔よりも低くなるのが普通だといいます。著者によれば、理由は次のとおり。

ひとつは、単純に人生経験が増えるためだ。子どもが生まれて親になれば親子の感動ストーリーに弱くなるし、幼い子どもが健気にがんばっているような姿にもすぐほだされる。親しい人の喪失を経験すれば、死にまつわるストーリーに自分の経験を重ねて涙するだろう。

長い人生を通じてさまざまな感情を知り、多種多様な人と関わり合うことで、他人の気持ちに敏感になれるのだ。(131ページより)

他にも理由はあるでしょうが、ともあれ中年以降になると涙もろくなり、共感力が否応なしに向上する側面もあるようです。

人間は生まれつき、他者とのコミュニケーションを通じて新たな自分をつくっていく衝動を持っているようにも思えます。しかし、生きている限りずっとその状態が続くわけではありません。個人差はあるものの、高齢になると「異質な他者は絶対に受け入れない」という脳に変貌する人も少なくないそう。

まだまだ先のことかもしれませんが、少なくとも、いまの自分を客観的に判断できる視点は持っておきたいものです。(131ページより)

共感が、人類進化の原動力であることは間違いないでしょう。しかしその一方、SNSの発達あるいはコロナ禍によって、さまざまな副作用が生まれたと著者は指摘しています。そこからの脱却について考察した本書を参考にしながら、共感のバランスを整えてみるのもいいかもしれません。

Source: 祥伝社新書

メディアジーン lifehacker
2024年10月12日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

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