『このドキュメンタリーはフィクションです』
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ドキュメンタリーは真実なのか 徹底的なネタバラシ
[レビュアー] 東えりか(書評家・HONZ副代表)
『広辞苑第七版』によると、ドキュメンタリーとは「虚構を用いずに、 実際の記録に基づいて作ったもの。記録文学・記録映画の類。実録」と定義されている。
だがドキュメンタリーと銘打たれた作品は制作者の意図が反映されている。ありのままではなく、何らかのバイアスがかかっていて当然なのに、視聴者は真実だと思い込む。騙されることにさえ娯楽を得る。
世の中の出来事は「そんなばかな!」ということの繰り返しだ。ドキュメンタリーの面白さは、誰かの頭の中だけにあるフィクションでは到底ありえない、奇怪なのにリアルな出来事にあるということだろう。
本書では古今東西の様々なドキュメンタリー映画やテレビ番組をテキストに、制作側の意図を推測し、視聴者が興味深く見る方法を全10章にわたって論じていく。もしその作品は真実を映していると信じる人が知ったら、少なからずショックを受けるだろう。それくらい徹底的なネタばらしが行われる。
綺麗ごとはいらない。事実を見せてくれ。ドキュメンタリーの観客は「何かが暴かれる」ことを期待している。著者は制作側の善意も悪意も晒していく。小気味いいほどだ。
私は本書で紹介された作品をかなりの割合で観ていることに驚いた。かつて、ドキュメンタリー映画の情報を得るにはかなりの努力が必要だったのだがSNSが状況を変えた。ネット上の評判が人を呼ぶ。単館上映だった映画が日本中に広がることも珍しくはない。配信サービスによって映画だけでなくテレビ番組でさえ観ることができる。
それにしても著者が本書で取り上げる作品のなんと面白そうなことか。簡単に観られない作品ほど魅力的に紹介している。彼が広報担当者だったらどの作品もヒットしそうだ。
私のように「川口浩探検隊」の面白さが忘れられない人には、またとない鑑賞ガイドである。