「長いトンネルのむこうに行くよ」老いたアナグマが残した“贈り物”とは…世界的ベストセラー絵本『わすれられない おくりもの』

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わすれられないおくりもの

『わすれられないおくりもの』

著者
バーレイ,S.(スーザン) [著、イラスト]/小川 仁央 [訳]
出版社
評論社
ISBN
9784566002647
発売日
1986/01/01
価格
1,320円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

長いトンネルの むこうに行くよ さようなら

[レビュアー] 梯久美子(ノンフィクション作家)

 書評子4人がテーマに沿った名著を紹介

 今回のテーマは「贈り物」です

 ***

「長いトンネルの むこうに行くよ さようなら」

 そんな手紙を残して、老いたアナグマは命を終えた。物知りで賢く、森のみんなに頼りにされていたアナグマ。残された者たちは悲しみにくれるが、思い出を語り合ううちに、アナグマがたくさんのものを残していってくれたことに気づく。

『わすれられない おくりもの』は、イギリスの絵本作家スーザン・バーレイによる世界的ロングセラー(小川仁央訳)。「死」というテーマを温かく描き、小学校の教科書にも掲載された。

 老眼鏡をかけ杖をついて歩く、ちょっと太ったアナグマが魅力的。デフォルメしすぎず、それでいて愛嬌のある姿にほどよく擬人化している。作中、アナグマはあくまでもアナグマと呼ばれていて、変な名前をつけられていないのも好ましい。ちなみにアナグマは、イギリスではとても親しみのある動物だそうだ。

 アナグマの贈り物はモノではなく、知恵と工夫だった。モグラには鎖のようにつながる切り絵のやり方を、カエルにはスケートの滑り方を、キツネにはネクタイの結び方を、ウサギにはしょうがパンの焼き方を教えた。

 生きるために必須の技術というわけではないが、暮らしを豊かにするものを残したのだ。それも、ひとりひとりの側(そば)で、ゆっくりと時間をかけて。

 教訓的なことは書かれていないが、余命を意識し始めた身としては、自分はいったい何を残せるのか、深く考えさせられた。

新潮社 週刊新潮
2024年10月24日号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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