『酒をやめられない文学研究者とタバコをやめられない精神科医が本気で語り明かした依存症の話』
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『酒をやめられない文学研究者とタバコをやめられない精神科医が本気で語り明かした依存症の話』松本俊彦/横道誠著
[レビュアー] 東畑開人(臨床心理士)
満ち満ちた「人間肯定」
ヘイ、マコト!ヘイ、トシ!
文学者のマコトと精神科医のトシが、自助グループの作法に則(のっと)って、「ヘイ!」と掛け声をしてから進めていく往復書簡が、あまりに仲良さげで羨ましくなったので、僕もお二人に同じ作法で書簡を出させてもらうことにしました。
いやあ、面白かったです。最高の読書体験でした。最近ひどく疲れていたのですが、この本はスラスラと読めてしまって驚きました。お二人が打ち明ける情けないエピソードにクスリと笑い、クスリやお酒、性をめぐる依存症についての深い理解にうなずくことしきりでした。率直に言って、大変元気が出たということです。
そこで、なんでこんなに元気が出たのだろうと考えてみたところ、二つ思い当たりました。ひとつはマコトとトシが依存症を撲滅すべきものではなく、人が苦しい最中でも生き延びていくための切実な試みだと考えておられることです。だから、お二人は自分の依存症的エピソードを惜しみなく開陳しておられるのですよね。僕も今、仕事終わりの疲れた体で喫茶室ルノアールに寄って、タバコを吸いながらこの手紙を書いているのですが、きっとお二人ならその気持ちを分かってくれる気がしたわけです。
もう一つはつながりこそが回復を促すというお二人の信念です。色々な治療プログラムがあるけど、本当に大切なのは集会の前後の雑談である、みたいな話をされていましたね。本当にそうだと僕も思います。そしてその信念は、この本に雑談が溢(あふ)れていて、二人がどんどん仲良くなっていくところに見事に実演されているように思いました。
大げさな言い方をすると、ようは愛ですね。愛とは深い肯定のことです。人間が生きていることへの深い肯定と、人間が人間を肯定できることへの深い肯定が、この本には満ち満ちていました。以上が感想です。ではでは、マコトとトシも元気でお過ごしください。(太田出版、2420円)