『よむよむかたる』
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【聞きたい。】朝倉かすみさん 『よむよむかたる』
[文] 三保谷浩輝
■読書会の「緊張とワクワク」
読書の喜び、味わいを思い起こさせてくれる物語。
舞台は北海道・小樽の喫茶店で開かれる平均年齢85歳の読書会。元アナウンサーの会長、元中学教師の独身男女、年の差婚の夫婦、会最古参の女性会計係。個性的で「おしなべて涙もろい」メンバー6人が月に一度集い、課題本を朗読しては感想を語り合う。
コロナ禍に伴う3年間の休会を経て再開。この間に喫茶店店長になった28歳の作家、安田が入会し、会の20周年事業責任者にも任命される。例会や記念誌制作を通じて安田と老人たちの交流が深まる。ハートウォーミングな中に高齢者のリアルな姿も描かれ、安田の幼少期の記憶などを巡るミステリーの味付けも。
「若さと老いは分断でなくつながっている、若さの先に老いがある。自分も含めて老いていくとこうなるという驚き、好奇心もありましたね」
モチーフは、北海道に住む母親が20年以上参加する高齢者の読書会。「なぜか、とにかく行きたがる」と不思議に思っていたが、見学すると「学級会、お楽しみ会みたいで緊張とワクワクがギュッと詰まった感じ。これはたまらないだろうなと」。会で本の感想を語る母に、他の場では見られない「もともとのすがた」を感じたとも。物語でも、参加者が方言で喜怒哀楽たっぷりに語る本の感想に、それぞれの人生が交錯する。
「本を読むと語りたくなることってある。でも、感想を語るのはハードルが高く、それに躊躇(ちゅうちょ)することが、本を読むことも躊躇させているのかという気もする。思ったことを何でも言える場、仲間がいればいい。そして語ることで、その作品が自分だけの物語になるのだと思いました」
同時に作家としても「私は語りを誘発するもの、読者がそれぞれの語りをできるようなものを書きたい。そう思ったら、これまで力んでいたのが楽になりました」。
本作のことを母親に話すと、「そりゃ売れるよ。みんなにも教えねばならないね」と言っていたという。読書会メンバーがどう語るか聞いてみたい。(文芸春秋・1870円)
三保谷浩輝
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【プロフィル】朝倉かすみ
あさくら・かすみ 作家。昭和35年、北海道生まれ。平成15年、「コマドリさんのこと」で北海道新聞文学賞。16年の小説現代新人賞受賞作「肝、焼ける」を表題作とする短編集で単行本デビュー。令和元年に山本周五郎賞を受賞し、直木賞候補にもなった『平場の月』など著書多数。