『アテンション・エコノミーのジレンマ 〈関心〉を奪い合う世界に未来はあるか』
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<書評>『アテンション・エコノミーのジレンマ <関心>を奪い合う世界に未来はあるか』山本龍彦 著
◆「人間とは」根源的な問い
多くの人はいま、1日のかなりの時間を各種SNSやポータルサイトなど、巨大IT企業のいわゆる「プラットフォーム」上のコンテンツを見ることに費やしている。それらは基本的に無料だが、その分私たちは金銭以外の大切なものを支払っている。「アテンション(関心、注意)」や時間である。プラットフォーム運営企業は、人々のアテンションを獲得し、それを広告主に売ることで利益を得る。それが「アテンション・エコノミー(以下、AE)」だ。
従来の民放テレビなどのビジネスモデルとどう違うかといえば、現状のAEは、私たちを四六時中離さないよう、個々人の趣向や属性を収集・分析し、各人を魅惑するコンテンツを延々提供し続ける。その技術は現在、私たちの思考や行動に甚大な影響を与え、かつ社会の根幹を大きく変化させつつあるのである。
本書は、そのようなAEの本質や問題、個人や社会に及ぼす影響について、憲法学者である著者が、各分野の専門家と語り合った対談集だ。語られるテーマは、AEがメディアに与える影響や、表現の自由やプライバシーとの関係性、人間の認知の仕組みや社会システムへの影響など多岐にわたる。読み進めるほどに気づかされるのは、AEの問題は、人間とは何か、民主主義とは何か、私たちはどんな社会で生きることを望むのか、といった根源的な問いを突き付けてくることである。
AEの拡大と並行して「生成AI」が急発展した結果、AIすなわちアルゴリズムが、人間に代わって様々(さまざま)な決定を下す世界が、現実になりつつある。その中で欧州はいち早く、人間の主体性や自己決定権を守るために規制をかける道を進み出した。一方アメリカは、自由主義的な伝統のもと、できるだけ規制はしないという立場を取る。
では日本は、私たちは、どんな未来を望むのか。それがいかなるものであれ、まずは誰もが、世界を覆うAEの本質を知るべきだろう。著者らが提唱する「情報的健康」という概念とともに、本書の議論が広く共有されてほしい。
(KADOKAWA・2970円)
慶応義塾大法科大学院教授・法学博士。内閣府消費者委員会委員ほか。
◆もう1冊
『プラットフォーム資本主義』ニック・スルネック著、大橋完太郎ほか訳(人文書院)