『選挙との対話』荻上チキ編著
[レビュアー] 清水唯一朗(政治学者・慶応大教授)
読み聞き話し 政治知る
3年ぶりに総選挙がやってきた。与野党双方で党首の交代があり、争点も多く、関心も高まっている。
もっとも、選挙にどう向きあえばよいのかわからないという声も多い。職業柄、知人からも、学生からも、どうしたらよいかとしばしば尋ねられる。
そうだろうと思う。それでいいと思う。政権が変わり、ところによっては選挙区も変わり、国内外の情勢も落ち着かない。少し立ち止まって考える時だろう。
さりながら、一人で考えるのはなかなか骨が折れる。かといってSNSを見ると、目を覆いたくなるような言葉があふれている。やれやれ。
どうしたらよいのだろう。本書はそのためのヒントを三つ示してくれる。
選挙を知るための地図があれば、少し安心できる。そのためには今の選挙がどうなっているのか、その仕組みと現状を知りたい。一つ目のヒントは専門家の分析を読んで、概要をつかむこと。
投票に行くには、候補者が何を考えているかを知りたい。二つ目のヒントは政治家の考えを聞いてみること。
わけてもわからないのは、実は私たち自身の考えだ。三つ目のヒントは、政治や選挙への疑問や印象をぶつけ合う、私たちのあいだでの対話、そのススメだ。
読んで、聞いて、話す。本書は本だからどれも「読む」のだけれど、いやいや、これは本を離れてできることだ(と本書は教えてくれているはずだ)。
専門家の解説はそこここにある。J―STAGEというウェブサイトにいけば学術誌の論文も読める。選挙事務所はどこも来客歓迎、候補者がどこにいるかを示すサイトもあるという(すごい時代ですね)。家庭でも、職場でも、飲み会でも、普段なら「政治?」といわれそうな場でも、選挙のときなら盛り上がれる。
政治は私たちの日常のなかにある。その基本は話す、聞くからはじまるコミュニケーションにある。そうだった。
投票日まであと1週間。本書を片手に、選挙のまちなかに一歩踏み出してみるのはなかなか面白そうだ。(青弓社、1980円)