『とるに足りない細部』
- 著者
- アダニーヤ・シブリー [著]/山本 薫 [訳]
- 出版社
- 河出書房新社
- ジャンル
- 文学/外国文学小説
- ISBN
- 9784309209098
- 発売日
- 2024/08/26
- 価格
- 2,200円(税込)
書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます
『とるに足りない細部』アダニーヤ・シブリー著
[レビュアー] 宮内悠介(作家)
「神は細部に宿る」という有名な格言があるが、まさにその「細部」を問う本書が扱うのは、あたかも神に見捨てられたかのような女性二人となる。
内容は二部構成で、第一部では、一九四九年に起きたイスラエル軍による遊牧民少女の暴行殺害事件が、軍の将校の視点から語られる。第二部では、この事件を報じる記事を目にした後世のパレスチナ人女性が語り手となり、事件の詳細を追い求める。女性はヨルダン川西岸地区を抜け出し、イスラエル側の博物館や事件が起きたとされる村を訪ねて回ることになる。
事件を追う理由は、少女が殺された四半世紀後の、同じ日時に生まれたから。彼女はこれを「とるに足りない細部」と呼ぶが、同時に、細部の先に真実への道があるとも考える。少女側の声を無視した記事では明らかにされていない、完全な真実への道が。
この考えを体現するかのように、著者は膨大なディテールを積み重ねていく。特に、第一部の静かな迫力には圧倒される。細部を積み重ねたその先に、歴史との接続は皮肉な形で果たされる。山本薫訳。(河出書房新社、2200円)