国会議員をネット投票で裁く…衆院本会議場を占拠し、政治家を拘束したテロ集団を描いた過激な小説とは

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処刑国会

『処刑国会』

著者
沢村 鐵 [著]
出版社
双葉社
ジャンル
文学/日本文学、小説・物語
ISBN
9784575527773
発売日
2024/08/07
価格
990円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

国民のネット投票によって次々処刑される悪徳国会議員。この国のすべての人に民主主義の根幹を問いかける超過激政治エンターテインメント小説 『処刑国会』沢村鐵

[レビュアー] 細谷正充(文芸評論家)

 現実の日本政治に鉄槌を下すような緊張感ある政治エンターテインメント小説が誕生した。謎のテロリスト集団が衆院本会議場を占拠。首謀者「コッカイくん」が最新の嘘発見器を駆使して国会議員の欺瞞を見破り、裏金問題、カルト宗教との癒着、公文書かいざんを厳しく尋問。その様子を全世界に生中継して、悪徳政治家の嘘を白日のもとに晒して処刑を実行していく──。

「小説推理」2024年10月号に掲載された書評家・細谷正充さんのレビューで『処刑国会』の読みどころをご紹介します。

■国会を占拠したテロリスト集団が、疑惑の与党議員たちを、国民参加のネット投票で裁く。沢村鐵の過激な政治エンターテインメントが、民主主義の根幹を問う。

 政治家の国会答弁を見て、イライラしたことはないだろうか。社会の大きな話題となった疑惑や不正を問われても、のらりくらりとした答弁を繰り返す。公文書の改竄を始め、どんな手を使っても追及から逃げる。このような醜悪な人間が国を動かしているのかと思うと、頭に血が上る。そんなときこそ、本書の出番だ。警察小説や現代ダーク・ファンタジーのシリーズで知られる作者だが、とんでもない政治エンターテインメント・ノベルを上梓してくれたのだ。ただしこの作品、撃つのは政治家だけではない。

 臨時国会の初日、謎のテロリスト集団により、衆院本会議場が占拠された。首謀者らしき人物は、国会のゆるキャラ“コッカイくん”の仮面を被っている。コッカイくんは最新のポリグラフなどを持ち込み、疑惑の議員たちに質問。その結果をリアルタイムで、ネット中継した。さらに国民裁判と称し、ネットを見ている人々に、どのような判決を下すかを託す。その結果、議員たちが、次々と処刑されていくのだった。

 本書には何人かの主要人物がいる。はみ出し者の公安刑事・幡多充。元刑事で、今は二回生議員の秘書をしている知念拓海。英国のオピニオン誌記者の、ウェンディ・キーナン・波佐間。臨時国会を見学していた、硬骨のジャーナリストの春宮唯士。それぞれに関係のある4人が、途方もない事態に向き合うことになる。

 この中で特に注目したいのが、記者のウェンディだ。テロリストが通信を禁じていないので、旧知の春宮と連絡を取りながら、ネット中継を見続ける。日本の政治に不信感を持っており、コッカイくんの主張にシンパシーを抱きながら、その気持ち自体を危惧する。ああ、ウェンディの心の動きはよく分かる。なぜなら私も、コッカイくんの主義主張に同意したくなってしまったからだ。

 だからこそ、裁判にかけられた議員たちの醜態が愉快痛快だ。しかしコッカイくんは、そんな議員たちを批判しながら、実際には何もしない国民や、きちんと疑惑を追及できないジャーナリストも剔抉する。テロリストは、この国のすべての人に、民主主義の根幹を問いかけているのだ。そこが本書の凄いところである。

 また、予想外の展開も特筆もの。中盤でテロリストの正体が分かり、幡多たちが国会に突入すると、状況は二転三転。次々暴かれる事実に、驚きが止まらない。メチャクチャに面白く、深く考えさせられる作品だ。

小説推理
2024年10月号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

双葉社

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