『九州異世界遺産』本田純一著

　九州の新たな魅力を絶妙なカメラワークで鮮やかに引き出した異色の写真集。紹介文も秀逸でその場所をすぐに訪れたくなる。

　過去の姿はとどめていないが往時の隆盛が偲（しの）ばれる建物や長い時を刻む場所など、知る人ぞ知る対象にフォーカスした著者のアイデアが光る。美しい風景や神社、仏閣、近代建築、産業遺構もチャーミングだが、切迫感がひしひしと伝わる戦争遺構も我々の心に刺さるパートだ。しかし、この写真集の魅力は何と言っても市場や飲食店街、過去に遊郭であった建物のたたずまいをとらえた幻想的ともいえるショットに負うところが大きいと思う。

　時代の変遷によって過去の賑（にぎ）わいが消えた市場や飲食店街などの姿は、昔を知る人の心を揺さぶるものがある。

　今もなおそこで、なりわいを続け、顧客の生活に密着している人々がいる。その場所で人生を歩む人達（たち）に心からのエールを送りたい。（海鳥社、２２００円）

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