『積ん読の本』
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<書評>『積ん読の本』石井千湖 著
[レビュアー] 永江朗(書評家)
◆「書物とは何か」を語る哲学
本は増える。どんどん増える。読んでも読んでも追いつかない。かくして未読の本の山ができる。俗語で「積(つ)ん読(どく)」という。本好きなら誰もが抱える悩みである。読書家は積ん読についてどのように考え、対処しているのか。12人にインタビューし、それぞれの書斎や書庫の写真も公開したのが本書である。
積ん読についての考えかたも姿勢もそれぞれ違う。例えば文筆家でゲーム作家の山本貴光。「森の図書館」と呼ぶ自宅は、まさに図書館、あるいは古書店の倉庫のよう。年に2千冊から2千500冊ほどの本を購入するという。「本は自分の関心事が物の形をとった、知識のインデックスみたいなものなので、必要になったときに読めばいい」と語る。本を手放すことはめったにないそうだ。写真を見て床が抜けないか心配になる。
作家の角田光代は積ん読したくない派。「何か絶望を感じるじゃないですか。一生のうちに読めないんだと思うとつらくなってきます」と言う。月に1回、<本棚の日>を設けて蔵書整理する。読み返さないだろうという本は古書店に引き取ってもらう。
積ん読について語ることは、読書について語ることにつながり、書物とは何かという哲学につながっていく。そして読書観も書物論もそれぞれ違う。デジタル化や電子書籍についても意見はいろいろ。
インタビュー集のトリは詩人で比較文学研究者、明治大学教授の管啓次郎。この人には『本は読めないものだから心配するな』(ちくま文庫)という名著がある。「積ん読」に該当する言葉は英語にもフランス語にもスペイン語にもないそうだ。世界でもTSUNDOKU。へぇぇ!
「本は<冊>という単位で考えるべきではない」と管は語る。本は「あらゆる本、あらゆるページと、瞬時のうちに連結してはまた離れるということを繰り返して」いるからだ。1冊にパッケージされているようで、じつは世界と無限につながっている。ぼくたちが読んでいるのは、その無限に広がる網の目の一部なのである。
(主婦と生活社・1694円)
書評家。著書『名著のツボ 賢人たちが推す! 最強ブックガイド』など
◆もう1冊
『本は眺めたり触ったりが楽しい』青山南著、阿部真理子絵(ちくま文庫)