『にぎやかな過疎をつくる』
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<書評>『にぎやかな過疎をつくる 農村再生の政策構想』小田切徳美 著
[レビュアー] 塩見直紀(半農半X研究所代表)
◆地域資源への「敬意」活かす
新概念創出力という言葉に出会ったのは三十数年前のこと。そんな力にひかれるようになった数年後、本書でも紹介されている半農半Xというコンセプトが誕生した。
ビジョンを失ったこの国、世界に羅針盤となるような言葉を自分も提示できたらと思っているので「これは」と思う言葉を日々メモしている。
そんな私が「にぎやかな過疎」というコンセプトに出会ったのは6年前のことだ。本書に出てくる徳島県美波町が制作した「にぎやかな過疎の町」と書かれたステッカーを縁あってもらった。「にぎやかな過疎」。それは故郷の京都府綾部市でも起こっている現象なのでピンときた。
綾部で何が起こっているのか。人口は確実に減ってはいるが、移住・帰郷での起業等で地域資源を活(い)かした魅力が創造され、情報発信も格段増、市内外の交流も活発。空き家が足りない現象さえある。たしかに「にぎやかな過疎」なのだ。そんな現象は全国で多発している。
PCにステッカーを貼り、6年、「にぎやかな過疎」と対峙(たいじ)してきた私はこんな結論に至る。今後もすぐれたコンセプトはいろいろ出てくるだろうが、「にぎやかな過疎」はいい意味で、日本がたどり着く「最終コンセプト」だろうと。
副題にあるように本書は農村再生の政策を構想する本であるが、日本再生の書だ。再生への核心、本質となるキーワードは何か。それはリスペクト(先人の知恵や風土が育んだ地域資源等への敬意)だ。リスペクトがそこにあるから、国内外から旅人がやってくる。リスペクトが多い地がこれからも選ばれていく。農村にはそんな宝がたくさん眠っている。それに注目する若い世代も増えている。そのことに気づけるかどうか。
「にぎやかな過疎」は高齢化した団地や元気がない商店街にも活かせる考え方だし、輸出可能な潜在力を持っている。農村政策の第一人者が「にぎやかな過疎」というタイトルの本を提示されたことに最大級の敬意を表したい。
(農山漁村文化協会・2420円)
明治大教授。著書『農山村は消滅しない』『農村政策の変貌』など。
◆もう1冊
『半農半X的 これからの生き方キーワードAtoZ』塩見直紀著(農山漁村文化協会)