『黒い蜻蛉』
書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます
【聞きたい。】ジーン・パスリーさん 『黒い蜻蛉』
[レビュアー] 斎藤浩(産経新聞社)
■小泉八雲と日本の恋愛物語
「雪女」「ろくろ首」などの『怪談』や、紀行文『日本の面影』で知られる明治の文豪、ラフカディオ・ハーン=小泉八雲(1850~1904年)の生涯を描いた『Black Dragonfly』を3年前、英語圏で出版。没後120年の今年、日本語版(小宮由訳)を刊行した。ハーンの著作物から会話を想像するなどして物語を紡いだフィクションだが、ほぼ史実に沿った伝記小説だ。
1980年代に旅行で来日した際に合気道と出会い、大阪と東京で8年半過ごす。現在暮らすアイルランド・ダブリンでは道場を構えるほどだ。「私がアイルランド人だと知ると、日本人から判で押したように『アイルランドといえばラフカディオ・ハーンですね』といわれた」
でも最初はその名前も知らなかった。本格的に興味を持ったのは帰国後。ハーンが幼少期に暮らした家の近くに偶然住むことになったからだ。原書の完成に8年を費やし、「ダブリンにいながら、ハーンをガイドとして日本に毎日訪れている気分だった」。
ハーンは4歳のとき母に置き去りにされ、その後両親は離婚。父にも見捨てられたという。そして16歳、事故で左目を失明。「ハーンは右目の視力も弱く、複眼で360度見渡せるトンボになりたかった。西洋から日本に来て、水の中で過ごす(幼虫の)ヤゴからトンボのように飛び立って優れた作品を出した」。タイトルの『蜻蛉』の由来だ。
明治23年、40歳で来日したハーンは、英語教師として松江に赴任。日本は近代化、西洋化を推し進めていたが、松江にはハーンが憧れた古き良き日本の魅力が残っていた。生涯の伴侶となる小泉セツにも出会った。
「この本はハーンと日本のラブストーリー。子供のころの困難を乗り越え、心の平安を手にして日本になじんでいく物語も楽しんでほしい」
ハーンは46歳で帰化して「小泉八雲」に改名し、54歳で亡くなるまで日本の風俗習慣、精神文化、霊的なものを愛した。「ハーンは神道に出合い自然や先祖、祖先を敬うことに感銘を受けた。この本をきっかけにハーンの著作の洞察に触れて今も息づく古くからの文化を知ってもらえれば」(佼成出版社・2750円)
斎藤浩
◇
【プロフィル】ジーン・パスリー
脚本家。アイルランド・ダブリン出身。米ニューヨーク大で学び、日本語の学士号と映画学の修士号を取得。