『新潮』『すばる』『文藝』から誕生した6人の新人。 完成度が高い作品は?
[レビュアー] 栗原裕一郎(文芸評論家)
10月発売の文芸誌には新人賞が集中している。『新潮』『すばる』(ともに11月号)、『文藝』(冬季号)で受賞作の発表があった。『新潮』『文藝』はそれぞれ受賞作を2作出している。『すばる』は受賞作1作に佳作が1作。計6名の新人作家が誕生した。
全体の感想をまず述べると、積極的に推したい作品は個人的にはなかった。やや苦しく見える授賞もいくつかあった。
そのうちの一つ、すばる文学賞佳作に選ばれた新崎瞳「ダンスはへんなほうがいい」は、金原ひとみの総括によれば、選考委員の大半が「「なぜこの小説が書かれたのかわからない」と口を揃えた」作品だそうで、実際、「評価しにくい」(奥泉光)、「私には魅力と映らなかった」(岸本佐知子)、「この小説のよさがいまだに分らない」(田中慎弥)といった評言が並んでいる。
それがなぜ佳作に?
「付き合いきれないナイーブさと屈託のなさが、そのままかろうじて作品の強度になりうる」(川上未映子)という具合に、旧世代の選考委員たちには欠点としか映らない側面こそが、実は新世代の徹底した批評意識の表れなのではないかと疑心暗鬼にさせる節があり、留保をつけるべく佳作に押し込まれたように見える。
今回の新人賞6作はどれも、ポイントに違いはあれども「留保をつける」ような評価になってしまうなあというのが所感である。
そんななか、完成度で頭一つ抜けていたのは、新潮新人賞受賞作である竹中優子「ダンス」だろうか。
入社丸2年になる会社員の「私」と、社内恋愛が破綻し情緒不安定になっている一回り年上の先輩・下村さんとの奇妙な交流がユーモアとペーソスを交えて描かれる。よく練り込まれているものの、作りすぎの気味も。竹中は短歌と詩でも賞を獲っていて、今回の受賞以前から一部では知られる人物のようだ。
もう一つ、文藝賞受賞作の松田いりの「ハイパーたいくつ」。「最近の文学賞受賞作を傾向と対策として導入した」(町田康)冒頭が読む気を失せさせるが、やがて妄想炸裂の異様な世界が展開する。この妄想に付き合いきれるかどうか。