『人の心が読める ヤバいコミュニケーション術』
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【毎日書評】コミュニケーションは推し活だ。コミュ力を劇的に上げる「ほっこり石を置く」攻略法
[レビュアー] 印南敦史(作家、書評家)
人生が思いどおりになる人と、ならない人との決定的な違いは「コミュニケーション能力の有無」。つまり、コミュ力があるかどうか。
『人の心が読める ヤバいコミュニケーション術』(網谷洋一 著、白夜書房)の著者の著者はそう述べています。「人間力コンサルタント®︎」として15年以上、経営コンサルティングや金融商品の代理店営業をしているという人物。また、おもに営業担当者に向け、コミュニケーション能力や営業力を教える活動も行なっているそうです。
つまり本書ではそうした活動を軸に、“コミュ力を劇的に上げる方法”を明らかにしているわけです。しかし気になるのは、その要点です。
相手の心にほっこり石を置いてくる。
これだけです。ほっこり石ってなんだ? コミュ力とどんな関係があるんだ? と思われたかもしれませんが、コミュニケーションにおいて最も大事なことです。
そもそもコミュニケーションとは推し活です。
そしてコミュ力とは、推して、押される力なのです。(「はじめに」より)
推し活だからこそ、コミュ力があれば(自分のことを推してくれる人が増えれば)、人生は思いどおりになるという考え方。そして、相手の心にほっこり石を置くことによって、それが可能になるというのです。
わかるような気もしますが、しかし、そもそも「ほっこり石」とはどういうものなのでしょうか? そして、それはどのような効果を生み出すのでしょうか?
そのことをもう少し具体的に知るために、きょうは第4章「ほっこり石を置く」を確認してみることにしましょう。
ほっこり石=正のストローク
著者によれば「ほっこり石」とは、専門的なことばでいう“正のストローク”。ことばや行動など、相手に対するポジティブな働きかけのことを指すのだそうです。たとえば、以下のようなことがそれにあたるようです。
・あいさつをする。
・ほほえみかける。
・励ます。
・ほめる。
・相手の話を聞く。
・あいづちを打つ。
・悩みを聞く。
・仕事を任せる。
・握手する。
・会いに行く。
・プレゼントを送る。
(131〜132ページより)
どれも、コミュニケーションの基本的なことがらであることがわかります。ポイントは、こうした正のストロークを受け取った相手は「認められた」気持ちになるということ。逆に、話を否定するなどの“負のストローク”は、相手を不快な気持ちにさせてしまうわけです。
ちなみに著者は、コミュニケーションの目的は「イエスを取る(ほしい結果を手に入れる)こと」だと主張しています。コミュニケーションではそれぞれが主体であり、お互いがイエスを取ろうとするもの。しかし、「自分が自分が」と両者がぶつかり合ってしまうと、イエスは取れないことになります。つまりイエスを取るためには、思いやりが必要だということです。
思いやりを持つとは、「For Youの気持ちで、相手の心にほっこり石を置くこと」。それが相手の推しになり、結果的に相手からも押されるようになる。(46ページより)
だから、コミュニケーションは推し活だというのです。しかし、相手の心にほっこり石を置くことが、なぜイエスを取るために必要なのでしょうか。
たとえば部下に「この資料、コピー取っておいてくれない?」など簡単なお願いをするなら、苦労せずにイエスを取ることができます。しかし、新規取引を成約させたり、プレゼンを採用してもらったり、上司の了解を取ったり……イエスには簡単に取れない(=なかなか10割にならない)ケースのほうが多いと言えます。ほっこり石はそのギャップを埋める(=10割に近づける)ものであり、相手を認められた気持ちで満たしていくものなのです。(132ページより)
つまり、ほっこり石を置くとは、「スムーズなやりとりを維持する」ということを意味するようです。(130ページより)
ほっこり石は蓄積される
ほっこり石には、相手の心に蓄積されていくという特徴があるそう。それは、相手の心のなかにコップがあると想定してみると理解しやすいといいます。
コップの中のほっこり石が満タンに近づけば近づくほど、イエスを取りやすくなるわけです。1回のコミュニケーションでイエスを取れるばかりでないことは、何度もお伝えしてきました。
ですからそのつど、大小さまざまなほっこり石を置いておく。そうすることで、ここぞというときにイエスを取れるようにしておくわけです。
また、ほっこり石をどんどん置いていくと、いずれコップは石がいっぱいになり、コップからこぼれはじめます。(134ページより)
コップがほっこり石でいっぱいになるとは、相手が「認められた」気分で満たされるということ。すなわち相手は、こちらのファン、推しになるということです。
あなたに、どうしてもソリが合わない上司がいたとします。その上司から物理的に離れる、つまり独立や転職できればいいですが、すべての人がそうできるわけではありません。
そんなとき、嫌な上司が数字を達成させるような行動をサポートできれば、そんな上司でもいずれこちらを推すようになることだって可能なのです。(135ページより)
つまり、ほっこり石を蓄積できるというのは、相手を引き寄せるだけでなく、相手との距離感をコントロールできるということも意味するようです。
そして相手が推しになる(コップからあふれている)のは、親密な関係が構築できているということであるわけです。(133ページより)
著者は本書を通じ、コミュニケーションの本質を伝えようとしているのだそうです。
それは読後すぐに効果を発揮するものではないかもしれませんが、長い目で見たとき、人生を必ず豊かにするものであると断言してもいます。少なくとも、コミュニケーション力を身につけるために、参考にしてみる価値はありそうです。
Source: 白夜書房