『日本半導体物語』
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『日本半導体物語 パイオニアの証言』牧本次生著
[レビュアー] 佐藤義雄(住友生命保険特別顧問)
発展と衰退 企業の内幕
日本の半導体産業の発展期から中枢で活躍し、「半導体のレジェンド」と呼ばれるほどの存在感を示し続けた人物による日本半導体産業のインサイドストーリーである。
メインテーマはあくまで日本半導体の盛衰とその原因だ。だが、日本の企業に共通する強みと弱みがこの業界の歴史に典型的に表れており、本書は業種を問わず企業経営のあるべき姿を考えるための示唆に富む著作であると思う。
日本の半導体は1980年代に世界の頂点に立った。家電製品や大型コンピュータ向けの半導体の旺盛な需要に支えられ飛躍的な発展を遂げたのだ。その半導体開発において大きな貢献をしたのが著者を中心とする日立製作所の半導体部隊である。しかし警戒感を高めた米国の圧力により日本は「日米半導体協定」という不利な枠組みを呑(の)まざるを得なかった。勢いをそがれた日本の半導体産業は韓国などにキャッチアップされたうえ、PCやスマホの台頭に対応できず急速な衰退に陥ったままだ。
この間の経緯は本書に詳しく述べられているが、日本企業は「知の深化」には強く、ツボにはまれば圧倒的な強みを発揮するが、「新たな知の探索が弱い」という例がそこに示されている。日本勢は新たな需要分野の見極めなどで米国などの後(こう)塵(じん)を拝して久しい。製造技術や品質管理には長(た)けているが、革新的な研究開発で遅れるのが弱点だ。著者もデバイス技術者とシステムなど他分野の技術者との協業が日本半導体業界の弱点克服に必要としその仕組みづくりや人材育成を急げと力説する。
著者は半導体の盛衰に左右された会社生活の浮き沈みや苦労も率直に語る。30代の若さで部長職に抜(ばっ)擢(てき)され、将来の社長候補と目されたものの、専務から取締役への2段階降格も含め、数度におよぶ左遷の憂き目にも遭った。この間の米提携先とのせめぎあいや社内での対立を生々しく描いた部分は裏面史として興味深い。(筑摩選書、1925円)