『台湾鉄道』文・古庭維/絵・Croter
[レビュアー] 遠藤秀紀(解剖学者・東京大教授)
お隣台湾の鉄道を描いた絵本である。傑作だ。素晴らしいの一言に尽きる。
車両も風景も周辺の人間も、実に可(か)愛(わい)い画(え)に描かれている。三歳児の好奇心を惹(ひ)く、優しい筆づかいだ。
ところが……。絵の周囲を囲む文字の部分は、大人でなければ理解できない容赦なく高度な記述なのだ。
冒頭は、鉄道とは社会にとって何なのかという本質論。そして、清朝統治時代からの、国と鉄道の百三十年史が語られる。視点は、国土と路線、軌道と車両の技術、戦争と復興、運輸政策、輸送を支える裏方、文化としての鉄道と、きわめて幅広い。鉄道のすべてを絵本に凝縮していく挑戦が、出色の出来栄えに結実している。日本でも欧米でも、絵本としてここまで熱意に満ちた試みは見かけない。
嬉(うれ)しいのは、鉄道を受け止める元気な思いだ。南の島に延びるレールは、いつの時代も人の幸せを祈っている、という主題が貫かれていると見た。万人にお勧めしよう。栗原景監修、倉本知明訳。(白水社、2530円)