『その子どもはなぜ、おかゆのなかで煮えているのか』アグラヤ・ヴェテラニー著

レビュー

  • シェア
  • ポスト
  • ブックマーク

その子どもはなぜ、おかゆのなかで煮えているのか

『その子どもはなぜ、おかゆのなかで煮えているのか』

著者
アグラヤ・ヴェテラニー [著]/松永 美穂 [訳]
出版社
河出書房新社
ジャンル
文学/外国文学小説
ISBN
9784309209142
発売日
2024/09/27
価格
2,750円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

『その子どもはなぜ、おかゆのなかで煮えているのか』アグラヤ・ヴェテラニー著

[レビュアー] 宮内悠介(作家)

 圧政下のルーマニアを逃れ、各地を転々とするサーカス一家の娘。それがこの物語の語り手だ。ルーマニアの秘密警察に売り渡される恐怖のなか、一家はショーをつづける。ショーの最中、母親が事故死してしまうのではないかと「わたし」は怖くてたまらない。そんな「わたし」に姉が語って聞かせるのが、「おかゆのなかで煮えている子どものメルヒェン」だ。煮られる子どもの苦しさを想像しているあいだは、母を亡くす恐怖から逃れられると姉は言う。この逸話が、本書のショッキングな題名の由来となる。

 おかゆで煮られる子どものイメージは、著者自身にも重ねあわせられたものだろう。というのも、本書は実際にルーマニアのサーカス一家に生まれた著者による、自伝的小説でもあるからだ。その著者が早逝する前に残した、唯一の完成作にして代表作が、本書となる。重いテーマを内包しつつ、文体はライトヴァースの詩を彷(ほう)彿(ふつ)とさせるような、余白を多く取った軽いもの。その軽さと重さの対比がきしみを生み、きしみは痛みとなって伝わってくる。松永美穂訳。(河出書房新社、2750円)

読売新聞
2024年11月8日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

  • シェア
  • ポスト
  • ブックマーク